では、なぜ今、銀座なのかと言えば、首都圏に相当規模の店舗網を築き上げたオーケーにとって、次の成長フロンティアが必要となりつつある。ここにこそ、オーケーの新たな経営課題があるのだろう。
とはいえ、この成長フロンティアは10年先を展望する経営の目線であり、今のオーケーに「既存立地での出店余地がない」と言っているのではない。ただし、今から長期的な戦略展開を考える上で、これまで手薄だった都内中心地区での勝ちパターンを作っておく必要があるということなのだ。
今後、首都圏16号線の内側という肥沃なマーケットでさえ市場縮小していくのであり、地方・郊外への進出で成長、というこれまでの小売業の定石は、もう選択肢とはならない。図2は都内におけるオーケーの店舗網の地図だが、最近はこれまでなかった山手線沿いや中心3区への出店が増えてきている。これこそ、長期的成長を見据えたオーケーの実験的布石であるとみるべきであろう。
少し前に、関西スーパー争奪戦に名乗りを上げ、敗れたオーケーは今、自前出店での大阪進出を進めつつある。関西への執念もこうした戦略の一端と見れば、納得できる話であろう。首都圏に次ぐ人口密集地である京阪神地区は、都内中心部と同様のマーケットであり、この貴重なフロンティアをオーケーが諦める訳はない。実際、業界大手ライフコーポレーションはこの2地域に牙城を構築しており、東京と大阪という二刀流はすでに先達がいるのだ。
今後ますます地方の人口減少は加速し、その一方で人口密集地である首都圏・京阪神への集中度はさらに上がるだろう。人口動向と密接な関係がある食品流通マーケットにおいて、これから首都圏・京阪神が最も激しい争奪戦の舞台となることは確実だ。
さらにいえば、これまで大阪は新規参入が少なかったため、新しい市場を獲得しようと各社が参入し、厳しい市場競争が繰り広げられるようになる可能性は高い。これからの競争激化で、エリアの事業者が相当大変になることは避けられないが、物価高騰の折、地域住民にとっては決して悪い話ではないはずだ。
中井彰人(なかい あきひと)
メガバンク調査部門の流通アナリストとして12年、現在は中小企業診断士として独立。地域流通「愛」を貫き、全国各地への出張の日々を経て、モータリゼーションと業態盛衰の関連性に注目した独自の流通理論に到達。
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