マーケティング・シンカ論

「LINEヤフー」が市場から評価されないワケは、“サービスの自己矛盾”にあるどうあるべきか(2/3 ページ)

» 2023年11月27日 08時00分 公開
[古田拓也ITmedia]

「自己矛盾」のスーパーアプリ構想

 LINEヤフーは、メッセージング、広告、eコマース、決済システムなど、さまざまなデジタルサービスを提供している。特に同社は自社サービスである「PayPay」と「LINE」、そして「Yahoo!JAPAN」をいずれもスーパーアプリ化することを目指している。

 スーパーアプリとは、一つのアプリの中で生活に必要となる多種多様な機能が組み込まれたアプリを指すが、この思想はまさに「コングロマリット」に近いものではないだろうか。そして、1つの会社に3つのスーパーアプリがあるということは、スーパーアプリ市場において、巨大な3アプリが自社内で顧客を食い争う、いわゆる「カニバリゼーション」を引き起こすリスクが大きい。これが、LINEヤフーの企業価値評価が低空飛行している最大の要因と考える。

LINEヤフーは「クロスユース」を促進していくとしている(出所:LINEヤフー決算説明会資料)

 足元ではLINEアプリの大幅リニューアルに伴い、新しい「ホームタブ」の導入とYahoo!ショッピングへの動線を整備し、LINEとYahoo!Japanの経営統合シナジー発揮に向けた新たな試みも見られる。

 一方で、経営統合に伴う販管費高騰が業績に響いており、同社はEC向けの販促費を大きく削ることで利益を生み出している状況だ。それでも、同社の24年4月期の最終益は950億円程度にとどまる見通しである。これはPayPay評価益もあって順調だった昨年度の最終益1788億円から40%近くも下回る水準だ。

 LINEヤフーがPayPayとLINE、Yahoo!JAPANの全てをスーパーアプリ化しようとする戦略は、ドミナント戦略という観点でみると特定の条件下で有効なアプローチであろう。この戦略の背後にあるのは、ユーザーの取り込みと、それぞれのアプリのユニークな機能を生かした市場シェアの確保である。

 ただし、ドミナント戦略は、一般的にコンビニエンスストアや飲食店といった実店舗ビジネスにおける「激戦区」、つまり顧客ニーズの高さがあらかじめ顕在化しているような場所や分野で行われることが一般的だ。「ライバルと競争してそちらにお客さんを奪われるくらいであれば自社内で競争させた方が他企業にお客さんを取られずに済む」といったドミナント戦略の経済合理性は、客数の多い激戦区のもとで有効となる。

 実店舗型の小売や飲食ビジネスであれば、「駅前エリア」や「大規模な住宅街」などひと目で高いニーズが期待できるエリアが分かる。しかし、アプリケーションやネットサービスのような分野では、顧客の興味関心も流動的で、小売や飲食のように「食」といった根源的な欲求よりも浅い部分のニーズとなるため、ドミナント戦略のような方法がうまくいきにくいのかもしれない。

 そもそも論として、スーパーアプリの思想が「一つのプラットフォーム内で全てを完結させる」ことを望んでいるにもかかわらず、そんなサービスの提供者が3つもスーパーアプリをリリースすることは「それぞれのアプリはスーパーアプリとして足りていない」ことを自ら告知しているのと同じで、自己矛盾に陥っているといっても過言ではない。

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