「大阪王将」会長が部下の言葉を遮って、ダメ出しをしたのはなぜかスピン経済の歩き方(5/5 ページ)

» 2023年11月28日 10時43分 公開
[窪田順生ITmedia]
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パワハラ批判騒動の本質

 現代の価値観に照らし合わせれば「昭和の職人文化」は100%アウトだ。徒弟制度の中での厳しい指導のない職人など職人ではないからだ。そんなアウトなものを成長モデルに組み込んで、企業カルチャーとして継承していけば当然、どこかでその「矛盾」が露呈する。それが今回の「大阪王将」会長のパワハラ批判だったのではないか。

 もちろん、そんなことは筆者に指摘されなくとも、職人文化で成長してきた大阪王将は重々承知している。それがよく分かるのが、「職人ロボ」の導入だ。

 10月1日、リニューアルオープンした西五反田店に調理ロボット「I-Robo」(TechMagic社)3台をテスト導入した。このロボットは、約60種類ある定番メニューの中の炒飯、肉野菜炒め、レバニラ炒め、回鍋肉、麻婆豆腐など20品を調理するというモノ。しかも大阪王将で全国に17人しかいない調理1級の鍋さばきを分析し、火加減や混ぜ方などを細かく設定し再現することに成功しているのだ。

 これが普及すれば、文野会長が言っていた「職人を育成していく仕組み」も大きく変わっていくことは言うまでもない。それはつまり、パワハラ・ブラック労働的な負の側面がつきまとう職人文化も大きく変わっていくということだ。

 これは大阪王将だけに限った話ではない。今、職人の世界でもデータや数値をもとにした指導が行われるようになってきた。かつてのような「感覚」や「経験」を継承するのに「3年間は見るだけで寿司を握らせない」みたいなことはなくなって、職人のノウハウをAIやロボットで再現しようという試みが進んでいる。

 そうなれば、部下の話を遮ってまで厳しいダメ出しをする必要もなければ、小生意気な口答えをする若者の頭を殴る必要もない。職人文化の負の側面がかなり解消されて、パワハラや暴力のない「令和の職人文化」が醸成されていくはずなのだ。

 職人文化が強く残る町中華の世界で、大阪王将がそれをどこまでやれるのか。注目したい。

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。窪田順生のYouTube『地下メンタリーチャンネル

 近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。


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