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“日立流”生成AI時代の組織再編 「ルマーダ売上2.65兆円」につなげる狙い(2/2 ページ)

» 2023年11月29日 06時00分 公開
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生成AIの年平均成長率は42% 活用の燃料はデータ

 Hitachi Digital ServicesのCEOにはロジャー・レヴィン氏が就任。Hitachi VantaraのCEOには新しくシーラ・ローラ氏が就いた。組織再編の対象となる社員は全体で1万人規模に上るという。売上高は5000億円規模になる。

photo Hitachi Digital Servicesのロジャー・レヴィンCEO
photo Hitachi Vantaraのシーラ・ローラCEO

 組織再編の狙いについて、阿部専務がこう話す。

 「生成AIの登場によりかつてないパラダイムシフトが起きています。加速度的に成長を続ける生成AIの活用において、その燃料になるのはデータです。爆発的に増大するデータを蓄積するためのデータインフラは今後、さらに需要が高まると予測されています。今回の再編は、そのデータを効率的に活用していくためにデジタルケイパビリティを生かし、さらに伸ばすこと。それらをうまくつないで価値を出していくことを目的にしています」

 Hitachi Vantaraが長年培ってきたデータ管理の強みと、Hitachi Digital Servicesが得意とするOTとITをつなぐ事業をさらに強化していく。そしてGlobalLogicとの価値連鎖を強化し、鉄道やエネルギー、産業などOTセクターと“One Hitachi”で社会イノベーション事業をグローバルに展開し、加速していく。

 組織再編の背景にあるのが、市場環境の変化だ。ここ5年間だけでも18年以降、市場ではビッグデータやIoTといった分野から、21年ごろはパブリッククラウド、そして現在では生成AIやハイブリッドクラウドへの期待が高まっている。次から次へと変わっているように映るものの、その中で常に中心にあったのがデータだ。阿部専務がこう解説する。

 「特に生成AIの市場は今後10年間で年平均成長率42%と、驚異的なスピードで成長を続けると予測されています。生成AIを活用するにあたり、データの社外への漏えいを気にする声や、最新のデータをうまく活用したいという声がユーザーから多くあります。この両方を実現するには、高いセキュリティのオンプレミス環境と、パブリッククラウドを組み合わせたハイブリッドクラウドが鍵になります」

 日立のハイブリッドクラウドは、業界トップクラスの仮想化技術やデータ保護技術、レガシーシステムをクラウド環境へ効率よくモダナイゼーションしたクラウド環境構築、複雑なクラウド運用を最適化する保守運用を武器にしている。

 阿部専務は「このデジタルケイパビリティを継続的に強化することで、伸びていくマーケットへと攻めに転じ、急速に進化する生成AIの活用を通じたデジタル変革を推進していく」と意気込む。

 今回の再編では、日立が掲げるルマーダ事業の強化も狙う。同事業では現在「マネージド(保守運用)サービス」「デジタルエンジニアリング」「コネクテッドプロダクト」「システムインテグレーション」の4つを柱にしている。この4つをかけ合わせることによってハイブリッドクラウドが実現し、さらなるDXにつなげる狙いだ。

 再編では、この4つの柱のうち「マネージドサービス」と「システムインテグレーション」の強化につながり、Hitachi Vantaraが持つハイブリッドクラウド事業の強化にもつながるとしている。

 日立ではこれまで「OT×IT」プロダクトを強みとしてきた。一方、OTとITはシステムの考え方や使う技術、言葉も違うので、この2つをつなぐには両方の知見やノウハウが必要で、非常に難しい領域になる。もともとHitachi Vantaraは、これを理解している人材を抱えており、日立グループの実案件などを通じ、ノウハウの共有も図ってきた。

 こうしたノウハウは、現に英国での都市間高速鉄道計画でも生かしてきている。鉄道車両や保守点検では従来のOTの技術を活用し、鉄道保守のソリューションではITの技術を活用することによって、コスト低減などの成果をあげてきた。

 「このようにデジタルの価値を社会インフラで実現していくためには、必ずOTの現場にITを実装するフェーズがあります。今後Hitachi Digital Servicesは日立グループ全体のOTとITの集結ポイントとして、人材の育成とともにナレッジを蓄積し、OT×ITのドメインソリューションを拡大していきます」(阿部専務)

 Hitachi Digital Servicesのもう一つの強みになるのは「HARC(Hitachi Application Reliability Centers)」と呼ばれるクラウド運用最適化の保守運用サービスだ。22年9月から提供しているサービスで、金融、製造、小売業などの分野に30社程度の導入実績がある。今後はHARCサービスを強化し、生成AIも活用していく。

 日立のクラウドシステム構築運用のナレッジを蓄積していくことによって、例えば、トラブルの調査や対処の際に生成AIに問い合わせるだけで、原因や対処の選択肢が得られるなどの作業効率化が期待できる。また、クラウド運用のためのプログラムコードにも生成AIを活用することによって効率化を図る。

 日立は今後、データを中心に据えたルマーダ事業を加速するために、ハイブリッドクラウド分野の技術開発に引き続き重点的に投資していく。

 阿部専務は今後の展開についてこう語る。

 「日立グループは、Hitachi Digital Servicesと新Hitachi Vantara、そしてGlobalLogicが連携することによって生成AI市場の成長を捉え、この3本の矢で海外ITサービス事業を1兆円まで伸ばしていきます。今後、海外でどこまでその存在感を出していけるか。これが、2024年中期計画で掲げる全社『ルマーダ』事業2.65兆円の達成などにつながると考えています」

 日立グループはこのデジタル事業の基盤を強化しながら、市場成長に沿った形で成長軌道に乗せていく。生成AIによる急速な市場拡大の波に、日立のような老舗企業がどこまで乗れるのか。その波がITだけでなくOTの領域にも広がってきているのかもしれない。

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