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日立社長「生成AIは歴史上のブレークスルー」 “電力需要6倍”にどう対処する?「AI普及」の課題を指摘(1/2 ページ)

» 2023年10月11日 08時00分 公開

 日立製作所(以下、日立)は、9月20日と21日に東京都江東区の東京ビッグサイトで「Hitachi Social Innovation Forum 2023 JAPAN」を開催した。ビジネスパートナーを対象に、協創に向けたきっかけ作りの場とするもので、60以上の展示やビジネスセッションを実施した。

 展示内容は鉄道や電力など、日立が長年けん引してきた分野もあり、ひときわ目を引いたのが、生成AIに関する展示だ。日立が2021年に買収したGlobalLogic社の事例をはじめ、生成AIを活用したメタバース空間上での保守など多くの関連出展もあり、日立が生成AIに強い関心を持っていることが分かる。

 20日には、基調講演として日立の小島啓二社長兼CEOが登壇した。その内容の多くは生成AIに対する日立の考え方を明示したものだ。日立は生成AI開発にどのようなビジョンを抱いているのか。

日立製作所の小島啓二社長(同社提供)

小島社長「その企業ならではの生成AIが開発されていく」

 日立は、データとテクノロジーを活用し、社会課題を解決する社会イノベーション事業に注力している。日本では少子化が続いていて、人口も11年から下がり続けている。経済成長の閉塞感がある中、日立は日本が持つイノベーションを起こす力を高めていくことで、成長を実現できると信じている。

 人類は「意志」によって、これまでイノベーションを引き起こしてきた。その一例として、小島社長はライト兄弟による飛行機の発明の例を挙げ、こう話す。

 「イノベーションは人間の意志から始まり、行動し、情報を取り、科学の探求に同時に取り組むことによって生まれるものだと私は考えています。ライト兄弟が発明した飛行機のおかげで、私たちはそれまでよりもはるかに容易に世界中を移動できるようになりました。これによって人々が新たに出会い、経験が広がり、そこから新しい意志が生まれることによって、さらなるイノベーションが生み出されていきました」

社長はライト兄弟による飛行機の発明の例を挙げた(同社提供)

 日立は自社の“意志”として「POWERING GOOD」というスローガンを掲げている。これは世界中の人々が望む良いこと、すなわち「グッド」を実現しようという強い意志から始まる。そして小島社長は次世代を担うキーテクノロジーを、バイオテクノロジー、生成AI、量子コンピュータだと考えている。

 「私たちはバイオテクノロジーの活用によって健康寿命を大きく伸ばして、さらに活発に行動できるようになるでしょう。また、生成AIの活用によって大量の文献から効果的に役に立つ情報を瞬時に得られるようになります。そして、量子コンピュータを使ったシミュレーションによって物理現象への理解を一段と深め、より短期間で新たな科学的な知見を獲得できることでしょう。日立はこれら次世代のキーテクノロジーを活用し、お客さまのイノベーションを支えていきたいと考えています」(小島社長)

小島社長は次世代を担うキーテクノロジーを、バイオテクノロジー、生成AI、量子コンピュータだと考えている

 そして話題は生成AIへと移る。生成AIについて、小島社長はこうみる。

 「生成AIの本質は、人類の言語に基づいて考える力や知能を、極めてうまくモデル化したことだと私は考えています。文章の要約あるいは翻訳、さらに過去の文献からアイデアを提案する。こういった言語に関わる知的な作業を汎用的にこなす力を持っていることが大きな点です」

 生成AIは、大量の知識を学習させた大規模言語モデル、LLMと呼ばれるニューラルネットワークの上に成り立っている。これは17年にグーグルが発表した「トランスフォーマー」という技術が支えている。トランスフォーマーは膨大な単語を、多次元的なベクトルや数値に変換して、単語のつながりの予測を繰り返す。これによって、単語の関連性や文脈を極めて高速に学習することを実現した。

 これまでの機械学習の欠点として、その規模を大きくしすぎてしまうと、逆に性能が落ちる傾向があった。生成AIではこの欠点を克服していて、言語モデルの規模が大きければ大きいほど、こなせる知的作業の数や精度が飛躍的に高まる特徴がある。これによって、OpenAI社のChatGPTに代表されるような生成AIが急速に実用レベルに達したのだ。明確な答えのない質問や指示にも、迅速かつ適切に新しいアイデアや選択肢が返ってくるようになった。

 「私はこの生成AIの登場は、IT活用の歴史を紀元前と紀元後に分けるくらい、巨大なインパクトを持つブレークスルーだと捉えています。生成AIは私たちのイノベーションを生み出す力を高めてくれます。これまで以上に困難な状況の中でも、課題解決の強い意志を抱いて、新たなソリューションを迅速に生み出せるようになるわけです」(小島社長)

 日立は生成AIを効果的に活用することで、企業の潜在力をフルに引き出すことを目指す。日本企業は先人が築き上げ、受け継がれてきた知識を数多く蓄積している。この蓄積は日本企業の強みとして活動を下支えしているものだ。一方で、こうした知恵が社内で分散していたり、技術者の暗黙知になっていたりして、十分に生かせていないことも多い。

 「今後それぞれの企業の強みを集約した、その企業ならではの生成AIが開発されていくと思います。日立は生成AIを活用し、お客さまの強みを拡大するお手伝いをできればと考えています。それを通じて、日本におけるイノベーションの加速と、持続的な経済成長の実現に貢献していきます」(小島社長)

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