――コロナ禍で電子チケットや、顔認証を活用した入場方法が既に確立しています。既存のものと、NFTチケットとでは何が違うのでしょうか。
横田: ブロックチェーン上のデータベースでチケット管理をしているのか、自社のデータベースで管理しているかの違いですね。ブロックチェーン上で管理することによって、匿名性が高く、かつ取引履歴の透明性が高くなることが特徴です。ですので、非公式な転売がやりづらくなります。逆に公演に行けなくなった人のチケットのリセール(主催が公認するチケット転売サービス)はやりやすくなります。
レコチョクチケットでは、二次流通の制御もできるようになっていて、そもそもできないようにすることや、特定のマーケットプレースのみで販売することも可能です。
――コスト面でも有利なわけですね。
横田: 本来は自前で全てデータベースから作る必要があって、それを一から構築しようとすると年単位のコストが掛かります。レコチョクチケットでは既存のブロックチェーンのデータベースだけでやっているので、実際に1日で作れてしまいました。web3の強みを生かした形になりますね。
インフラとしてはAWS(Amazon Web Services)を利用して、レコチョクチケットを表示させるWebページやNFTの管理をしています。AWSのブロックチェーンサービス利用者として、かなり先行した開発をしていたところもあり「re:Invent 2023」での発表と同時に、AWSのブログでもレコチョクが事例として紹介されています。
――コロナ禍で多くのライブチケットが電子化されたのですが、特に顔認証によるものだとリセールに対応していないところも少なくありません。
横田: そうですね、ここも現状の課題だと捉えています。今後、生体認証とひもづいた形でウォレットが作成できるような規格も整いつつあるので、スマートフォンだけで、本人確認とチケット管理の両立ができるようになると考えています。
――レコチョクチケットの採用状況はいかがでしょうか。
松嶋: 3月にリリースして以降、音楽ライブ、演劇公演と徐々に増えていっています。会場規模も200〜300規模の会場から始めている段階ですね。既に数社と何回かテストしながら進めています。将来的にはAPI公開していくことも検討しています。
――NFTの研究開発をやりながら、同じ組織で生成AIにも果敢に取り組んでいる企業はあまりないと思います。同時並行で開発している立場として、生成AI時代のNFTやブロックチェーンは今後どのようになっていくと思いますか。
松嶋: ここは少し僕の妄想が大きくなってしまうのですが、当面は生成AIがどんどん普及していくと思います。そうなると、特に画像や動画でフェイクのものが出回るようになりますし、実際に既にそういったものが出てきています。こういったデジタルコンテンツの真実性を維持するために、今後ブロックチェーン技術が不可欠になってくると思います。いずれ全てのデジタルコンテンツはブロックチェーン上に載ってくるのではないかと思っています。
――確かに岸田首相のフェイク動画など、生成AIを悪用したコンテンツが問題になっています。
松嶋: 既に実は同じようなことがインターネット上では起こっているんですね。Webページではかつて「HTTP」を使用していたわけですが、今ではセキュリティを担保した「HTTPS」に置き換わっています。HTTPページだと情報が抜き取られるリスクがあるためですね。
――今ではHTTPページを閲覧しようとすると、警告が出るようにもなっています。
松嶋: これと同様に、ブロックチェーンで信頼性が担保できないコンテンツは信用されなくなるのではないかと考えています。画像そのものは生成AIで乱造できるようになっていますから、これを防ぐためにブロックチェーン上でコンテンツを全て管理する動きが起きると思っています。
こういったインフラセキュリティの観点で、ブロックチェーンが普及する未来を、想像しています。これは生成AIが普及したことによる副産物というか、そこから生じる課題解決方法として出てくると思っています。
――まさしく生成AI時代にブロックチェーンは不可分というわけですね。
松嶋: 逆にAIによって画像を無尽蔵に生成できることを、NFTに生かす可能性も出てくると思います。例えば日本のNFTって絵柄自体は全て同じで、シリアル番号によって区別しているものが大半です。これは当然、一つ一つ絵柄を変えていたら採算が合わないからですね。
ここにAIを活用して元の絵に少しずつアレンジを加えるようにすれば、低コストで全てのNFTの絵柄を変えられます。こうすることでNFTを視覚的にユニークにでき、価値を上げられる可能性があると考えています。
――確かに生成AIを活用することで、シリアル番号ごとに絵柄を変えることが現実的になります。
松嶋: それも元の絵がブロックチェーン上で管理されていて、そこからジェネラティブに例えば1万点の絵を作ることで、全部の絵がブロックチェーンでトレースできる状態が作れるわけです。
――このやり方ならレコチョクチケットにも生かせそうな気がします。生成AIによって新たなビジネスモデルが生まれる可能性があるわけですね。
松嶋: 可能性はあると思っています。例えば今の音楽配信はサブスクリプションがメインですが、一方で楽曲単位で購入するダウンロードサービスもやっています。この形の場合は、検索で楽曲が引っかかって購入してくれることが多いです。
これが生成AIで変わってくる可能性があります。今グーグルで試験的にやっているのが、検索結果をAIで要約してくれるサービスです。そこにわれわれのSEO(検索エンジン最適化)だけでなく、SGO(検索生成最適化)がうまくいって、適切な表示がされるかが大事になってきます。
――SEOはWebニュースでも非常に重要な要素ですが、これからはSGOも意識する必要があるわけですね。
松嶋: 今まではUXとして購入画面を一生懸命用意していたのですが、ここをもう少し効率的に検索できるようにするためにAIを活用していくように変わっていくと考えています。
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