筆者は23年2月に「相次ぐ値上げでも“過去最高益”の東京ガス 赤字転落の東電と明暗分かれた理由」について記事を執筆した。記事では、当時電力会社がエネルギーコストの仕入れ価格高騰を背景に苦しんでいる中で、同じく天然ガスを原料とする「東京ガス」の連結純利益が23年3月期に2360億円に達し、史上最高の黒字を更新した旨に言及している。
東京ガスが最高益をいち早く出せた背景には、同社のガスの調達力の強さが関係しており、長期契約によって安定した価格でガスを仕入れ、原油価格の高騰の影響を相対的に軽減している点と速やかな価格への反映が電力会社との差になったと指摘している。
電力会社が今のタイミングになって過去最高益を更新していることを考えると、東京ガスと電力会社の間にはおおむね半年から1年ほどの価格転嫁タイムラグが存在すると考えられる。
そんな東京ガスの直近の動向を確認すると、今期は昨期の最高益4214億円から1500億円程度と利幅が3分の1程度まで大幅に反落していることが分かる。ただし、21年度の営業利益が1177億円であることを踏まえると、22年度は飛び値であると認識した方が良いかもしれない。
営業利益の伸びが落ち着いた理由は、天然ガスの仕入れコストが高止まりしたことで、新たに仕入れる分の価格差益が剥落したことや、世界的な資源価格の落ち着きが素早く業績に反映されていることにあるという。
原料である天然ガスの価格は、23年1月から32%も下落している。通常、冬季にはエネルギー価格は暖房などの需要で値上がりするのが通常だが、幸いにも23年はエルニーニョ現象の発生に伴い比較的気温が高い日が続いた結果、値上がり幅も限定的だ。
天然ガスの価格が落ち着いており、今後も安定的に推移することを踏まえれば、早ければ24年の前半には東京ガスを中心に、ガス代の価格に調整が入り、そこから数カ月ほどのタイムラグを経て電気料金にも見直しが入る形で正常化していく可能性がある。
電力会社やガス会社は、社会インフラとしての役割を担っている。そのため、過度な料金の値上げは一般的に許されず、仮にそのように映る業績が出る場合はより丁寧な説明が求められる。これらの会社は、公益と利益追求のバランスを取りながら、適正な価格設定とサービスの提供が求められる。
今回のような事例でもし電力会社が「特別配当の実施」や「配当金の増額」を行っていたとしたら、便乗値上げとの批判は妥当だっただろう。
なぜなら、インフラ企業が値上げによる増益に対して配当金を積み増すことは、国民の支払った公共料金を一部の株主だけに還元するものになるためだ。増配した部分は「本来値上げしなくても良かったはず」ということになる。
しかし、電力各社は今期における大幅増益を経ても配当金を増額しておらず、当時最高益を更新していた東京ガスも配当金を積み増すことはしていなかった。そうすると、今回の値上げは株主がもうけるための便乗値上げというよりも、電力会社側の財務体制を回復させるためという側面が大きかったという意図が各社の配当政策からも浮き彫りになる。
エネルギー市場は、常に変動し続けるため、電力会社やガス会社もその変化に柔軟に対応する必要がある。複雑な市場環境と戦略的な企業努力の結果とみることができるだろうが、最高益というセンセーショナルな言葉だけを信頼するとその本質を見誤ってしまう可能性がある。誤解によって国民の信頼を失うのはもったいない。インフラ企業側もこのような利益のメカニズムについて、丁寧に説明していく必要があるだろう。
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら
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