さて、ジョブ型や職務給が広がっていく中で、給与処遇面ではマネジメント職とプロフェッショナル職のどちらが有利なのでしょうか。
そもそも管理職層はマネジメント職だけという企業があったり、プロフェッショナル職が設定されていても営業系や事務系の職種ではほとんど実在者がいないという企業もあったりするので、組織長ポストについている間は基本的にマネジメント職が有利です。ただし、次の2点を考慮する必要がありそうです。
一つは、組織長をいつまで続けられるかです。役職定年制度の有無やその後の処遇がどうなるかは考えるべきでしょう。課長、部長、役員と昇進していく人はずっと高処遇ですが、そのような人はほんの一握りです。
同期入社者から一人も役員が出ない企業は珍しくありません。『管理職の異動配置に関する実態調査』を行ったところ、典型的な管理職像は40歳前後で課長になり、そのまま部長に昇進することなく57歳で役職定年を迎え、60歳定年を経て定年再雇用で65歳まで働くというものです。
ジョブ型になって役職定年制度も廃止傾向にありますが、ずっと組織長ポストに就いていられるのかというと、必ずしもそうとは限りません。役職定年制度がなくなるということは、ポジションニーズに応じた適所適材の配置を徹底していくということです。
若手の抜擢(ばってき)登用を推進しようとしている企業が多く、40歳から57歳まで17年間ずっと課長でいられるのかというと、むしろ一般的にはポストオフが早くなるのではないかと予測されます。
問題はポストオフ後です。仮に50歳でポストオフすると、その後、再雇用期間を含めて15年間はプレーヤーとして仕事をしていくことになります。組織長在任期間中にプレーヤーとしての専門能力を錆びつかせないようにしていなければ、ポストオフ後の給与は、ずっとプロフェッショナル職としてやってきた人より低くなることもありそうです。
二つ目は、今の会社にいつまで勤めるのかです。同じ企業に勤め続けると考えると基本的にマネジメント職の方が給与面では有利でしょうが、何回か転職するかもしれないとすると、マネジメント職は有利とは言えないかもしれません。
職務給への関心が高まりつつあるとはいうものの、日本の実際の給与相場は職種別・仕事別ではなく、企業ごとに決まっているのが実情です。そのため同じような仕事をしていても、A社の一般社員の給与がB社の管理職より高いということがあり得ます。ある仕事のプロフェッショナルとして複数企業でキャリアを磨いていく、または役職定年や定年に縛られずに働いていくというキャリアを想定している人は、就業期間をトータルしてみるとマネジメント職よりも高い生涯所得を得るということもあるかもしれません。
もちろんビジネスキャリアとしてマネジメント職かプロフェッショナル職かは給与の高低だけで選ぶべきものではありませんが、働く期間が長くなってきている時代においては、ピーク時所得よりも生涯所得の観点が重要になってきます。マネジメント職とプロフェッショナル職のどちらが長く働けるのか、そして、プロフェッショナル職を選ぶのなら何のプロフェッショナルになるのかがカギです。新卒入社の時点でそれが明確に定まっている人はそれほど多くはないはずです。
続稿では一般社員層の職務給を取り上げます。
藤井薫
パーソル総合研究所 上席主任研究員
電機メーカーにて人事・経営企画スタッフ、金融系総合研究所にて人事コンサルティング、タレントマネジメントシステム開発ベンダーにて事業統括を担当。2017年8月パーソル総合研究所に入社し、タレントマネジメント事業本部を経て2020年4月より現職。著書に『人事ガチャの秘密』(中公新書ラクレ)。
パーソル総合研究所は、パーソルグループのシンクタンク・コンサルティングファームとして、調査・研究、組織人事コンサルティング、タレントマネジメントシステム提供、人材開発・教育支援などを行う。経営・人事の課題解決に資するよう、データに基づいた実証的な提言・ソリューションを提供し、人と組織の成長をサポートしている。http://rc.persol-group.co.jp/
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング