セールスイネーブルメント組織を社内で立ち上げ、セールスパーソンを育成する上で一番大切なのは「ロールモデルの設定」です。
このとき、社内のどんな人材をロールモデルにすべきでしょうか? 社内の全てのセールスが目指すべき存在なのだから、必然的にトップの成績を上げているセールスパーソンだろうと考える人も多いのではないでしょうか? しかし実はそうとは限りません。
ここで選択を間違えると、せっかく人材と費用と時間を投下しても期待した成果が上がらないおそれもあります。そこで、筆者がセールスイネーブルメント組織をゼロから立ち上げた経験から、どんな人をロールモデルにすべきかについてお伝えします。
まず大前提として、ロールモデルに社内のトップセールス、つまり高い成果を上げているセールス人材を設定するのは間違いではありません。有名企業のトップセールス像を掲げても説得力に欠けますし、いろんなセールスのいいとこ取りをしても「しょせんは理想像だろう」と思われてしまい、浸透しないからです。
やはり社内の身近なトップセールスは想像しやすく「あの人のようになりたい」と目標にしやすいというメリットがあります。ただここで大事なのは「どのトップセールスをロールモデルに据えるか」です。ここから、筆者の経験をお伝えしましょう。
まず、1人のセールスがかなり長期間トップを独走していない限り、どの会社にも複数のトップセールスがいるでしょう。筆者が所属するGAテクノロジーズで、不動産を活用した資産形成をサポートするRENOSYマーケットプレイス事業部にも、個性豊かなトップセールスたちがいます。
まず、コミュニケーション力と人柄で顧客に愛されるトップセールス。これをAさんとします。彼は立て板に水のごとく滑らかなトーク力があるわけでも、論理的に隙のない説明ができるわけでもありません。しかし顧客と良好な関係性を築くのに長けており、長期にわたって活躍しています。
一方、トップセールスのBさんは違った強みを持っています。彼は業界経験が長く、競合他社の商品の特徴を知り尽くしています。加えて、他の資産形成サービスや投資に関する法改正などについても深い知見を持っています。Bさんはこの圧倒的な知識ゆえに顧客に頼られ、やはり高い成果を出し続けている人でした。
Aさん、Bさんともに優秀で、間違いなく会社を代表するトップセールスです。しかしこの2人はロールモデルにしてはいけない人物でした。
まずAさんが顧客に愛されるのは、持って生まれた天性のキャラクターと、高いコミュニケーション力によるものです。顧客との会話から得られる「フィーリング」を最も重視しているため、なぜ高い成果を出せるのか本人も言語化できません。当然、他の人はとてもまねできず、再現性が低いスキルと言えます。
一方のBさんは自分の行動を分析しており、日々実践していることを言語化できます。しかし、他者がまねするにはやはり圧倒的な知識量を必要とし、短期間のインプットではとても間に合わず、育成に時間がかかりすぎてしまうことが分かりました。
このことから、ロールモデルを設定する際には、まず2つの観点が重要だと気付きました。
Aさんの場合は1、Bさんの場合は2を満たしておらず、ロールモデルとしては不適切だったのです。
筆者が最終的にたどり着いたのは、トップセールスのCさんでした。Aさん・Bさんと並び、長期にわたり高い成果を出し続けていますが、彼らとは大きな違いがありました。それは、自らの商談をプロセスに分け、それぞれのフェーズで必要なコミュニケーションを考えて実行していたことです。
「初回の商談ではこれを伝え、2回目にはこのポイントを話し、こう質問されたらこのように返す」という流れが、全ての顧客とのコミュニケーションにおいて計画し、それを愚直に実行している。まさにセールスを科学し、成功するために必要な手を打っている模範的なセールスパーソンだったのです。
Cさんこそが最適なロールモデルだと考えた筆者は、彼の考案したセールスプロセスごとに、とるべきコミュニケーションを「キーアクション」として設定しました。それを他のセールス向けにインプットし、実際に商談で実行できているかをOJTでチェックする体制を整えました。
その結果、セールス1人当たりの売り上げは前年度比で93%アップしました。それに加えて離職率は19%下がるなど、スキルを属人化させず組織全体の強化につなげることができました。
なお、ロールモデルは一度設定したあとも、顧客のニーズや扱う商品などの変化に応じて見直すのがベストです。自社に合ったロールモデルを設定し、都度見直すことで、常に成果を生み出せるセールス組織づくりに役立てられるでしょう。
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