豊田章男会長退任の舞台裏 自工会はどうやって生まれ変わったのか池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/9 ページ)

» 2023年12月11日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

JAMAの改革

 そういう流れを大きく変えたのは、他ならぬ豊田会長だった。筆者は、先に書いた通り、別件の取材でたまたまJAMAの問題点があらかじめ頭に入った状態で、豊田会長の大改革を見てきたので、極めて腹落ちすることが多かった。豊田会長がまずやったのは、各社から会議に出る人を、決裁権のある人に限定したことだった。

 JAMAを実のあるものにしようとすればそれは当然の話で、各社の責任ある立場の人が、本気で意見を出し合って、業界のいく末を決めて行くしかない。だからまずは一番の軸になる正副会長と理事、つまりJAMAの役員は、格を見ながら失礼のない肩書きの人を名簿用に並べる方式をやめて「社長が出て、本気で話し合おうよ」と決めた。各社社長が忙しくないわけはないが、だからといって、すでに一線を退いた人でお茶を濁すことはやめるという姿勢を打ち出したのである。

 まずそれを各社に理解させ、長い慣習を打ち破った政治力がすごい。なにしろ全員がナショナルカンパニーの社長なのだ。その組織が本当に動けるようになればドリームチームそのものである。

 そしてさびついて機能しなくなった一般社団法人のJAMAを変えるために、事務方に大量のトヨタ社員を送り込み、ある種強引に変革を進めた。これに対してはいろんな意見があることは理解できるし、時に日産やホンダの中の人からは「トヨタは好き勝手にやり過ぎだ」という声も聞こえてくる。流石に内田誠副会長(日産自動車社長)や三部敏宏副会長(本田技研工業社長)がそんな不見識なことを言うはずもないが、現場の人たちの中にはかなりそういう意識を持っている人がいるのだ。気持ち的には分からないではない。

 「だったらトヨタに代わって御社が引き受けます?」と問われれば、途端に声が小さくなる。トヨタの出向組(社内業務は従来通りやっているので出向でもないのだが、便宜上)は「ウチに得なことは一つもない。給料外の大量の仕事をやって、感謝をされるどころか、嫌われて文句を言われる損な役回り」だとはっきり言っている。自分のところのトップである豊田会長がやれと言うから断れずにやっているわけで、誰かがやってくれるならそれに越したことはない。

 お互いにでしゃばることを警戒して、みんなが相手の領域に踏み込まない。相互不可侵を決め込んで、勝手に物事を進めない道を選んだとしたら、元の何もしないJAMAに逆戻りである。

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