なぜ会社員もせっせと「裏金」をつくってしまうのか 日本にはびこる「員数主義」スピン経済の歩き方(5/5 ページ)

» 2023年12月12日 11時25分 公開
[窪田順生ITmedia]
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裏金の基本的な考え

 山本氏によれば、これは「他の部隊から盗んででも数を合わせろ」と暗に言っているのだという。この「員数合わせ」という名の犯罪行為は、いじめや体罰と同様、軍隊内では表向きはご法度だったが、現場レベルではまん延していた。

 『盗みさえ公然なのだから、それ以外のあらゆる不正は許される。その不正の数々は省略するが、これは結局、外面的に辻褄が合ってさえいればよく、それを合わすための手段は問わないし、その内実が『無』すなわち廃品による数合わせであってもよいということである』(『一下級将校の見た帝国陸軍』)

 ここまで言えば筆者が何を言わんとしたいかお分かりだろう。この考え方は、裏金の基本的な考えだ。何よりも大事なことは外面的に帳尻が合うということなので、キックバックされたものを懐に入れようが、プール金を積み立てようとも許されるということだ。

 そして、山本氏はこのような員数主義が日本型組織を蝕(むしば)む最大の原因だと考えていた。

 『戦後、収容所で、日本軍壊滅の元凶は何かと問われれば、殆どすべての人が異口同音にあげたのがこの『員数主義』であった。そしてこの病は、文字通りに「上は大本営より下は一兵卒に至るまで」を、徹底的にむしばんでいた。もちろん私も、むしばまれていた一人である』(『一下級将校の見た帝国陸軍』)

 筆者はこの員数主義が日本の政治、経済、そして教育などあらゆる組織に広がっていったと考えている。それは冷静に考えれば当然だ。日本の戦後をつくったのは、山本氏らのように「員数主義にむしばまれた人々」たちだからだ。

 ある者は政治家や官僚となった。ある者は会社を立ち上げて、ある者は会社員となった。彼らはそこで戦後生まれの新しい世代に、「組織人とはかくあるべし」ということを手取り足取り教えた。その中には間違いなく、「員数主義」が含まれていたはずだ。

 その結果が今の日本だ。名門企業が「帳尻さえ合えばいい」と不正に手を染めて、普段は天下国家を語るような政治家が「政治資金収支報告書の数字が合えばいい」と裏金づくりに腐心する。

 この「病」がどこからきているのかを真剣に向き合わない限り、自民党だけではなく、日本社会自体が壊滅してしまうのではないか。

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。窪田順生のYouTube『地下メンタリーチャンネル

 近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。


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