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「やりたい仕事だけ」しか頑張らない若手 それでも叱ってはいけない?(2/2 ページ)

» 2023年12月14日 12時20分 公開
[児玉結ITmedia]
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関わりのポイント1:持ち味を見つけ、引き出す

 1つ目のポイントは、本人の持ち味を見つけ、引き出すことです。ここでいう持ち味とは、その人ならではの特徴、その人らしさのことです。知識やスキルに限らず、行動特性や関心領域、性格なども含めさまざまな観点からその人らしさを捉えることが重要です。

 例えば、Aさんには明るく協調性が高いという長所があります。加えて、日頃の様子をよく観察していると、元いた営業所のメンバーや他の営業所の同期とよくランチに行っている様子が分かりました。つまり、複数の営業所の若手社員とのネットワークを持っているということが、Aさんの特徴の1つであるといえます。

 そこで、上司のXさんが「営業所の若手とのネットワークを持っていることは、営業企画の仕事をする上でとても役立ちますね」とその特徴を伝え、意義を認めてあげることがポイントです。

 このことによってAさんは、単に仲の良いメンバーとのランチでしかなかったものを、社内ネットワーク(社会関係資本)として捉え直すことができます。自分がそのようなネットワークを持っていること、それが自分の特徴であることを自覚すれば、仕事での情報収集や部署間連携に活用しようという意識が芽生えてきます。

 Z世代の育成では強みを褒めて伸ばせということがよく言われますが、このように、本人が「得意」「強み」と自覚していることだけでなく、本人が気付いていない、または特に注意を払っていないような特徴を見つけ、それを伝えて持ち味を自覚してもらうことが、上司の重要な仕事になります。

 特徴はごく小さなこと、上司やベテラン社員の目から見たらまだまだというようなことでもよいのです。本人がそれを自分自身の特徴として意識し、生かそうとすることが、主体的な行動や成長につながっていきます。

photo 画像はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

関わりのポイント2:活躍の場を作る

 本人ならではの特徴を見つけ、持ち味として本人にフィードバックすることができたら、次はそれを生かせる活躍の場を意図的に作り出します。

 例えばAさんに「各営業所からの意見を集める」という仕事を依頼することなどがそれに当たります。本人にとっては、営業所とのネットワークをあらかじめ自分の持ち味として認めてもらっているので、何の前触れもなくこの仕事を割り振られた時と比べて「その仕事を自分がやる意味」をより感じられます。

 また、もう1つのやり方として、部署やチーム全体でその人の持ち味を共有しておき、その持ち味が生きる仕事・タスクが、自然とその人に集まる状況を作る方法もあります。

 Aさんが営業所の若手にネットワークを持っていることを日頃から上司のXさんが部署のメンバーに伝えておけば、Aさんの持ち味はこの部署の周知の事実になります。そのうち、ネットワークづくりが得意ではない先輩社員が、Aさんに営業所との橋渡しを依頼するような場面も出てくるかもしれません。このように、周囲に頼られたり、誰かの役に立てたりする場面が増えることで、Aさんはより仕事に意味ややりがいを感じられるようになります。

 「活躍の場を作る」というと難しく考えがちですが、実際はこの程度のことで十分です。

 管理職の方から「Z世代には強みを生かす仕事をさせろと言うが、そうそう条件にピッタリ合う仕事があるわけではない」という悩みを聞くことがあります。しかし、「〇〇さんは〜〜という持ち味がある」ということを組織のメンバーが互いに知っているだけでも、その人が活躍できる場面は日常の中で自然に生まれやすくなるのです。

 また、このやり方には別のメリットもあります。小さなことでも上司がその人の良さを見つけ、認めているということは、他のメンバーにとっても「この上司はちゃんと私たち一人一人を見てくれている」という安心感につながります。さらに、メンバーそれぞれがお互いの持ち味を理解し合っていることは、チームビルディングにもプラスの影響を及ぼします。

関わりのポイント3:上司自身の「当たり前」を自覚する

 さて、ここまではAさん本人の気付いていない特徴を持ち味として引き出し、それを生かしてAさんが活躍できる場を作ってきました。このあたりでいよいよ、本人の苦手な数値管理をどうしていくかに向き合いましょう。

 Aさんとの1on1で数値管理の仕事についてどう感じているかを聞いてみたところ、こんな答えが返って来たとします。

 「数値管理の仕事は大事だと思っています。でも正直、無駄も多いのではないかと感じています。例えば、営業所ではこの部分しか見ていませんし、もう少し必要な情報だけに絞れば、スッキリして分かりやすくなり、作業も楽になるのにと思います」

 このような答えは、上司であるXさんにとっては、逐一反論したいことだらけでしょう。出している数字の1つ1つには当然意味があるし、重要なものばかりです。何より、Aさん自身がきちんとできてもいない仕事に対して文句をつけるなんて……と怒りやいら立ちが湧いてくるかもしれません。

 しかしここで重要なのは、一度立ち止まって、冷静に自分自身の「当たり前」を点検してみることです。

 「この仕事は本当に、改善の余地がない完璧なやり方が確立されている状態だろうか?」

 「ゼロベースで考えて、もっとシンプルに効率化できるところはないか?」

 「この機会に、より効果的なものにするとしたら、何を試す余地があるか?」

 こう自問自答してみてください。大抵の仕事には改善の余地があり、若手社員のこのような問題提起は改善・変革のチャンスでもあります。

 Aさんの意見に対してすぐに反論したり、取り合わなかったりする上司自身には「仕事ができるようになってから意見すべき」「今のやり方でやり続けるのがベストだしラク」という無自覚の「当たり前」が潜んでいるかもしれません。

 しかし、変化の激しい現代において、改善・変革の可能性は常に追求すべきでしょうし、それは業務を知り尽くした管理職やベテランにしかできないわけではありません。むしろAさんのように業務経験の少ない人の意見から、イノベーションのきっかけが生まれることも多いものです。

 意見や価値観が大きく異なる他者との関わりは、このような自分自身の「当たり前」に気付くチャンスでもあります。Aさんが本当に問題意識を持っているのであれば、数値管理の仕事の在り方の改善をAさんに任せ、その仕事を通して苦手な部分に習熟してもらうという方法もあるでしょう。

 ここまでAさんの持ち味を認め、活躍の場をつくり、その意見を受け入れて改善を任せてきたことで、上司XさんとAさんとの信頼関係はかなり強まったはずです。信頼関係のある相手からのフィードバックは、厳しいものであっても真摯に、むしろ喜んで受け止める人が多いのがZ世代のもう1つの特徴です。

 以上、Aさんの例を参考に若手社員との具体的な関わり方のヒントをお伝えしてきました。

 Z世代が仕事の意味や意義を感じられるようにお膳だてすることは、決して本人を甘やかすことではありません。むしろ多様な持ち味の自覚によって本人の可能性を広げ、チームのパフォーマンスを高め、上司や組織にとっても現在の仕事を見直す機会になります。ぜひ試してみてください。

著者情報:児玉結

リクルートマネジメントソリューションズ HRDサービス開発部主任研究員。広告業界などを経て2008年に入社し、以来一貫して企業向け研修など人材育成サービスの企画に従事。新入社員〜管理職まで、幅広い領域の企業研修の企画を担当。マネジメントやリーダーシップ、学習や成長といったテーマでの調査・研究も行っている。

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