新時代セールスの教科書

NTT「個の営業」からの脱却 「100万の顧客リスト」をどう統合した?組織再編の課題

» 2023年12月13日 08時00分 公開
[河嶌太郎ITmedia]

 NTTグループが組織再編を進めている。2022年7月にはNTTドコモがNTTコミュニケーションズと事業統合。NTTコミュニケーションズはドコモの法人事業を一手に担う体制となった。23年7月にNTTコムウェアがNTTコミュニケーションズと統合し、金融・産業系ソリューション事業を強化する体制を整えている。

 3社が統合する中で課題となったのが、営業手法や顧客リストの再編だ。これまでのNTTコミュニケーションズやドコモ、コムウェアの顧客は重複しているものもあれば、していないものもある。3社それぞれで企業文化も異なり、SFA(営業支援システム)の使い方もCRM(顧客関係管理)の仕方もバラバラだという。

photo 左からセールスフォース・ジャパンの井上靖英専務執行役員、NTTコミュニケーションズの梶井久代DX戦略部門長、戸松正剛マーケティング本部長、菅原英宗副社長

 組織再編から1年あまりが経(た)ち、NTTコミュニケーションズはどのような統合を進めているのか。個に依存せず、成果を出し続ける営業組織を作るために何をしているのか。生成AI時代の営業の形とは。11月28日に都内で開かれたSalesforce World Tour TokyoでNTTコミュニケーションズの菅原英宗副社長、戸松正剛マーケティング本部長、梶井久代DX戦略部門長の3氏が、経営、営業部門、IT部門の立場から語った。

photo NTTコミュニケーションズの菅原英宗副社長

1万7800人組織、顧客数100万に 課題をどう乗り越えた?

 まず、NTTグループの事業統合の狙いについて、菅原副社長が説明した。

 「私どもは22年7月に事業統合し、新ドコモグループを形成しました。その大きな目的の一つして、法人のお客さまに対するビジネスを拡大していくことや、例えば金融関係など、通信以外の業種にもサービスを拡大していきたい狙いがあります。今年7月にはコムウェアが営業組織も含め加わったことで、コミュニケーションズはドコモグループの法人ビジネスを一手に引き受けるような会社になりました」

 社員数も総勢1万7800人という大きな組織となったものの、課題も多い。NTTでは新しいコミュニケーション基盤「IOWN」の研究開発を進めていて、生成AIやWeb3、メタバースといった次世代サービスの現実化に向け、一層の事業拡大を狙っている。

 「今回の組織再編で、リーチできる顧客の数が100万ぐらいに増えました。そこで課題となっているのが、この新たな顧客とのCRMです。CRMをしっかりとやりながら、お客さまのDXをサポートしていくことが課題になっています」(菅原副社長)

 100万の顧客とのCRM。言葉にするのは簡単だが、その苦労は並大抵ではない。現場の営業は、どのように対処していったのか。戸松マーケティング本部長が語る。

 「同じNTTグループといえど、ドコモ、コミュニケーションズ、コムウェアはいずれも出自が違う形で事業を展開してきたので、組織文化も異なります。経営レベルではこのような統合の際、『ポスト・マージャー・インテグレーション(PMI)』という統合プロセスを経るのですが、営業の現場でもこれと同じような作業が発生します。

 例えば営業のやり方一つをとっても、3社はパイプライン(営業の一連のプロセス)からして全く違います。どのような営業スタイルにしていくべきか何度も話し合いをしましたが、定性的で感情的な議論になりがちなのです」

photo NTTコミュニケーションズの戸松正剛マーケティング本部長

 新会社の新しい営業スタイルはどうすべきなのか。この議論を進めていく上で欠かせないのがデータだ。それぞれの営業スタイルにはどのようなメリットとデメリットがあるのかをデータで定量的に示すことによって、営業のベストプラクティスは何かという議論を深められる。そしてそのデータを取得するツールがSFAだ。

 どのようにSFAの統合を進めていったのか。梶井DX戦略部門長が振り返る。

 「セールスフォースをドコモとコミュニケーションズの法人事業のそれぞれで使っていたため、統合するプロジェクトを進めました。検討開始からリリースまで2年近くかけて取り組んでいます。このプロジェクトだけで300人規模の体制で進めました。同じセールスフォースでも、事業ごとに個別の機能が乱立していたため、それをまず標準的にしていく『Fit to Standard』に取り込みました」

 データを社内の「共通言語」にしていくため、どのようなシステムにすれば一元的なデータになるのか。営業部門とIT部門がワンチームとなって開発を進めていった。

 こうしたDXの結果、何が生まれたのか。菅原副社長が明かす。

 「コミュニケーションズではセールスフォースを11年から導入していて、もともとデータドリブン経営をしていきたい狙いがありました。今回の再編でその必要性が増し、深まった形ですね。新ドコモグループになって、光回線からモバイル、クラウドまで、サービスの幅が広がりました。今後はお客さまのCX(顧客体験)の向上にデータを活用していきたいと考えています。もう一つはチームセリングを強化することによって、生産性向上につなげていきたいですね」

 チームセリングの強化とは、一体どういうことなのか。戸松マーケティング本部長が説明する。

 「CXをチームで求めていくことですね。われわれはB2Bのビジネスを展開しているので、顧客は法人です。社内の統計をみると、顧客満足度を感じる一番のポイントはヒューマンタッチ、すなわち営業の部分なんですね。つまりB2Bの営業では人間が非常に大事ですので、それぞれのメンバーのレベルをどれだけ上げていくのかが重要です。そこでわれわれは、顧客の状況を1枚のカルテのようなもので可視化する『アカウントスコアカード』を作り、チームで運用しています」

 この顧客の情報に真っ先に触れ、入力するのが営業担当者だ。そのため、この精度を高めていくことで、データとしてのCXも向上していく形になる。

 チームセリングを強化する上で梶井DX戦略部門長は「SFA以外にも、日々使っているパソコンやITシステムといったOA環境も統合していきました。オフィスインフラを整えていくことでも、チームセリングをより加速できる仕掛けを作っていきました」と振り返る。

photo NTTコミュニケーションズの梶井久代DX戦略部門長

生成AI時代の営業

 生成AIの飛躍的な進歩によって、セールスフォースをはじめとするSFAなどにも生成AIの機能を取り入れようとする動きが進んでいる。例えば、社内の顧客データをSFA内の生成AIに取り込むことによって、顧客データリストの中から的確な助言を生成AIがサポートする仕組みがある。

 こうした近い将来の生成AIを活用した営業について、戸松マーケティング本部長がこうみる。

 「生成AIが営業マンの話し相手になれることに面白さを感じています。営業だけでなく、顧客からの相談にも生成AIを活用することによって、新たなソリューションを提供していけると考えています。営業サイドと顧客サイドの両面で生成AIを使っていければいいと思います」

 菅原副社長は生成AIの活用についてこう話す。

 「私どもの100万のお客さまは、大企業から地域の中小企業まで、幅広くいらっしゃいます。こうした幅広い顧客にマーケティングするときには、いくつかクラスタを作ってターゲティングすべきと考えています。こうした分野にAIを活用していけないかと考えています」

 菅原副社長がこう意気込む。

 「私どもNTTグループでもLLM(大規模言語モデル)を開発しています。セールスフォースをはじめとするSFAにも活用できるようにしていきたいですし、お客さまのDXやCXの向上に貢献していきたいと切に思っています」

 NTTのような大企業となると、その顧客リストは100万にものぼる。これを解決するために、SFAを活用したデータドリブンな仕組みが不可欠と言えそうだ。データドリブンになることによって、個としての営業からチームセリング、チームとしての営業にシフトすることができそうだ。まさに「営業のDX」といえる。

 生成AIの導入も各社で進む。営業支援ツールでも今後、その重要性は増しそうだ。

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