この記事シリーズ【NVIDIAが独り勝ち AI業界「2023年の勢力図」を整理する】で、テクノロジー業界の主戦場は、業界が成熟するにつれ、レイヤーが上がる話をした。
AI業界もまだまだ黎明期ではあるものの、現時点ではハードのインフラレイヤーではNVIDIAが首位を独走中だ。ソフトのインフラレイヤーでは、OpenAIの独走にMetaが待ったをかけた状態(関連記事【AI業界は一国一城の戦国時代 Metaがオープンソースで大暴れ】)ということで、一時的ではあるが勢力図は固定された状態になっている。
そうなれば注目は、さらに上のアプリやツールというレイヤーに集中する。確かにアプリレイヤーには注目が集まっていて、米シリコンバレーの著名ベンチャーキャピタル「Andreesen Horowitz」が「How are Consumers Using Generative AI(消費者はどのように生成AIを使っているのか)」というレポートを発表。アプリレイヤーの動きを解説している。
そのレポートによると、アプリレイヤーで最も強いのは、やはりChatGPTだ。6月の月間アクセス件数が16億件で、月間ユーザー数が2億人を記録した。有力アプリ、ツールのトップ50の総アクセス件数の60%をChatGPTだけでたたき出す圧倒的勝者である。ただこれは想定の範囲内。今回のAIブームに火をつけたのがChatGPTなので、当然それぐらいの人気はあるだろうと思う。
意外だったのが、2位のcharacter.aiだ。月間アクセス件数が3.3億件と、ChatGPTの件数の21%ほどに達している。映画俳優やスポーツ選手、アニメキャラクターなどのチャットボットと会話を楽しめるというサービスで、10代から20代の若者層に圧倒的な人気を誇っている。このため、特にモバイルアプリからのアクセスが多いという。ユーザーは一回のセッションで30分、1日に平均2時間もチャットボットと会話するという。YouTubeの平均視聴時間が20分といわれることを考えると、動画視聴を超える新たな娯楽が生まれたといえるのではないだろうか。
このチャットボットという新たな娯楽の登場に目をつけたのがMetaだ。このほど大坂なおみ選手など有名人のキャラクターを採用したチャットボット28体を開発。同社傘下のインスタグラムなどのSNSで利用可能にすると発表した。一般企業にもチャットボット開発のためのツールを無料で提供し、開発したチャットボットをインスタ上などで運用可能にする計画を発表している。
まずは米国ユーザー向けに運用が始まるようで、2024年はチャットボットとの会話という新しい娯楽が世界的に流行するのかどうか注目したい。
アクセスランキングに戻ると、3位はcharacter.aiからさらに大きく水を開けて、GoogleのBardがランクインしている。Bardは、最新の情報にアクセスできるほか、テキスト情報だけでなく画像データも取り扱えるだけでなく、GmailやYouTube、GoogleマップなどGoogleの各種サービスとも連携。無料ながら、ChatGPT有料版の機能に迫るような充実ぶりで人気になっている。
4位以下はどんぐりの背比べといった感じのアクセス件数になっている。ただ非常に便利なアプリもたくさん存在する。
「便利なアプリを紹介して」というリクエストをよくいただいく。ただこうしたアプリやサービスは既に一万個以上登場しており、もはや全てのアプリを試すことなど無理だ。自分が試したことのないアプリを薦めるわけにもいかない。
そこでX(旧Twitter)やYouTubeなどで、自分以外の人たちがどのようなAIアプリを推薦しているのかを紹介したい。
プログラマーにとって圧倒的に人気があるのは、やはりChatGPTの有料版だろう。書き上がったプログラムの間違い箇所を一瞬で見つけてくれたり、プログラムを描き始めたら意図を理解して続きのプログラムを書いてくれたり「生産性が大幅に向上した」という意見をよく耳にする。類似のアプリに比べると、特に機能追加の頻度が圧倒的に高いようで、新しい機能をいち早く試したい人にはChatGPTの有料版が最適だと思う。
一方、学者や研究者に人気があるのがChat PDFと呼ばれるサービスだ。論文などのPDF形式の文書をアップしたり、PDF文書のURLを入力するとAIが文書を瞬時に要約してくれる。またChatGPT同様にいろいろと追加質問できるのが便利だ。「要約文を日本語に翻訳して」と命令すると、一瞬で日本語の文章が表示されるし、「中学生でも分かるように説明して」と命令すると非常に平易な例を出して説明してくれる。論文全体を読まなくても気になるところ、分かりづらい箇所に関して、分かるまで徹底して聞くことができる。相手はAIなので、当然ながら何を聞いても嫌な顔一つしない。
オンラインミーティングが多いビジネスパーソンが重宝するのがZoomの要約機能だろう。Zoomを使った会議動画の内容がほとんど一字一句落とすことなく書き起こされ、それが要約される。まだ日本語では実装されていないようだが、要約機能を利用した米シリコンバレーの投資家が、YouTube動画のインタビュー番組の中で「最近のAIの機能としては最高の出来栄え」と絶賛していた。
契約書などをページ数の多い書類の内容をチェックしないといけないビジネスパーソンが重宝しそうなのが、Anthropic社のClaudeだろう。ページ数の多い文書をアップすれば、それを要約したり、変わった点がないかなど内容をチェックしたりしてくれる。ChatGPTでも同様のことはできるが、アップできる文章のデータ量に制限がある。ClaudeはChatGPTの3倍以上のデータ量を解析できるのが特徴で、YouTubeのインタビュー動画の中でシリコンバレーのビジネスパーソンが絶賛していた。Anthropicは、ChatGPTを開発したOpenAIの言語モデル系の研究者がOpenAIを辞めて創業したAIベンチャーで、言語モデルの技術に関してはOpenAIよりも優れているという評判だ。
最後に、個人的に私が最近よく使うAIアプリがPerplexityだ。リサーチャーや研究者向けに特化したサービスで、インターネット上のテキストデータ全般で学習しているのではなく、論文など良質なデータだけ学習したAIなので、リサーチに必要な情報が的確に表示される。回答の先頭に、ネット上のどのページを参考にしたのかというリンクが先に表示されるのもPerplexityの特徴だ。あまりにも便利なので、私自身最近は検索サービスや他のAIアプリをほとんど使わなくなっている。
Andreesen Horowitzのレポートによると、こうしたAIを搭載したアプリやツール、サービスの市場はまだまだ流動的だという。後発アプリが先行アプリをアクセス数で追い抜く例が後を絶たないので、しばらくはアプリメーカー間の激しい競争が続きそうだ。
このインタビュー動画、取材する側、される側とも本人ではなく、本人の顔や体を精密にスキャンしたデータをベースに生成したアバターが話している。でもどう見ても、二人の人間が同じ部屋で対話しているようにしか見えない。
Metaのミーティングのメタバースは、足がなく胴体が浮いているアニメ風アバター同士で会話することが滑稽だった。でもここまでフォトリアリティーの高いアバターでなら、目の前で話している感じになるのだろう。Zoomミーティングよりも臨場感がある。
今は専門デバイスによる詳細なスキャニングが必要らしいが、近い将来はスマホで自分自身をスキャンするだけでも、これだけのクオリティが出るらしい。またスキャンデータを最初に転送しておくので、実際の会話の最中に動画の大量データを送信する必要がない。通信容量を大幅に節約できるわけだ。
正式発表や正式リリースはまだだが、順次利用可能にする予定という。2、3年後には、これが一般的になるようだ。
本記事はエクサウィザーズのAI新聞「2023年秋、AI業界勢力図③アプリ戦国時代の幕開け」(2023年10月11日掲載)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。
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