「日プ」はなにがすごいのか? アイドルビジネスの歴史から考える(2/3 ページ)

» 2023年12月20日 08時00分 公開
[古田拓也ITmedia]

アイドル像が明確に変わった2000年代

 近年ではアイドルの活動は多様化するようになった。これは00年代後半に登場した“会いに行けるアイドル”である「AKB48」が代表的だろう。所属アイドルがバラエティ番組やドラマなどに登場することに加え、握手会や「総選挙」といったファン参加型のイベントが親近感を高めた。この頃からアイドルは神格化される存在から、より一般人にとって身近な存在となってきたといえるだろう。

 スーザン・ボイル氏や、最近ではとにかく明るい安村氏が国際的にブレークするきっかけとなった海外番組『ブリテンズ・ゴット・タレント』(BGT)もこの時代に誕生した番組である。オーディションの基準は厳しい審査員4人によるものだが、会場の雰囲気に押されて審査員が不合格から合格に覆すケースも少なくない。

むしろ、スーザン・ボイル氏によって『ブリテンズ・ゴット・タレント』を知ったという人も多いだろう

 令和に入ってからはSNSや配信プラットフォームの台頭により、アイドルとファンの関係性がさらに密接になっている。アイドルはSNSを通じてファンと直接交流を持つことができ、配信の同時接続数やSNSのエンゲージメントで“数字”もリアルタイムで可視化されるようになった。つまりファンの側からしても自分たちの活動の成果が可視化されるようになったということだ。

 ビジネス的に見たアイドルという興行は、インターネットの発達がターニングポイントとなっている。情報のタイムラグが大きかった時代は「当たるか、外れるか」の賭けに出られる目利き役のプロデューサーが重要だった。しかし今ではそのような目利き役がいなくても、一般人によるSNSの「いいね」数や配信の同時接続人数を見れば、誰が人気か一目で分かる。

 製造業の分野で「熟練の職人」の役割が機械に置き換わってしまうように、アイドルというビジネスにおいても目利きプロデューサーの役割がSNSの民意に置き換わっている。これは、出版社がインフルエンサーに書籍のオファーを出すこととも似ている。SNSのもたらした情報のリアルタイム性は、出版業界においても先行投資のリスクを軽減した。ある程度の利益(SNSのフォロワー、つまり潜在的な読者)が見込めるインフルエンサーに頼ってしまうのは、仕方がないのかもしれない。

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