萩本欽一さんに学んだ「良い会社の作り方」 浅井企画の一時代を築いたマネジャーのプロが語る軌跡異才を見いだす「育てるマネジメント」(1/3 ページ)

» 2024年01月12日 07時00分 公開
[仲奈々ITmedia]

連載:異才を見いだす「育てるマネジメント」

働かないおじさん、管理職にならない若者……現代は、責任を負い、才能を育てるマネジャーへのイメージが著しく下落している。そんな中、不確実性が高い芸能界やアスリートの世界でも結果を残す名物マネジャーはどのようなことを意識してマネジメントを行っているのか――。多くのエンターテインメントビジネスのプロデュースを手掛けるFIREBUGの佐藤詳悟CEOが、今気になるマネジャーを訪ね、才能を発掘する方法、育てる方法、軌道にのった後のマネジメントの在り方を議論する。

FIREBUG公式Webサイト

 吉本興業でナインティナイン、ロンドンブーツ1号2号、ロバートのマネジャーを務めた後、FIREBUGを立ち上げた佐藤詳悟氏。FIREBUGでは、才能を拡張させる“タレントエンパワーメントパートナー”として、多くのタレントのプロデュース戦略を手掛け、企業向けにはタレントを軸としたコンテンツを中心にマーケティングソリューションを提供している。

 本連載では、マネジメントのプロである佐藤氏が、今会いたい“敏腕マネジャー”と対談し、メンバーのモチベーションを上げたり、才能を開花させたりするヒントを探っていく。

 第5回目となる今回の対談相手は、エンターテインメント事業を手掛けるENPASSの名誉会長の川岸咨鴻(かわぎし・ことひろ)氏。藤圭子のマネジャーなどを経験した後、コント55号など数々の人気タレントを輩出してきた芸能プロダクション「浅井企画」で45年間、専務取締役を務めた。

ENPASS川岸咨鴻名誉会長

 日本でテレビ放送が始まったのは、昭和28年。昭和15年生まれの川岸氏は、メディアのあり方が大きく変化していった時代をどう生き抜いてきたのか。そして、その道のりの中でどのようにタレントたちと向き合い、才能が花開く組織を作ってきたのか。

大道具から始まったキャリア、「突然肩をたたかれて」藤圭子のマネジャーに

佐藤詳悟氏(以下、佐藤氏): 川岸さんは、60年以上芸能マネジャーをされているんですよね。芸能界に関わるようになったきっかけはなんだったのでしょうか。

川岸咨鴻氏(以下、川岸氏): 高校を卒業して、東宝関連の会社に大道具として入社したんです。そこでしばらく裏方の仕事をしていたんですが、とある週刊誌で若原一郎という歌手が野球部員を募集していましてね。

佐藤氏: 歌手が野球部員を募集?

川岸氏: 昔はコンサートで地方に行くときに、その土地の商店街の人たちと試合をしていたんですよ。学生時代は野球部にいたから、試しに応募してみて。150人くらい応募者がいたらしいんだけど、3人採用されましたね。その中に僕もいた、と。

左から、FIREBUG佐藤詳悟CEOとENPASS川岸咨鴻名誉会長

佐藤氏: 野球をしている以外の時間は何をしていたんですか?

川岸氏: ボーヤ(付き人)みたいなことをしていましたね。楽器を運んだり、ステージをセットしたりとか。公演中は暇だから、舞台袖からコンサートを見ていました。バンドメンバーがやたら楽しそうに演奏するもんだから「あ、僕も楽器やろうかな」って(笑)。

佐藤氏: それまで音楽は何かされていたんですか?

川岸氏: 全くやっていないですね。興味関心すらなかった。今考えると、音楽が楽しそうってよりも、とにかく楽しそうにしている彼らを見てやってみたかっただけなんだよね。ちょうど良いタイミングで、トランペットを担当していたメンバーが「楽器を変更する」と言うから、使っていたトランペットをお下がりでもらって吹き始めました。

 それからは、ボーヤをする合間に教則本で練習して。それなりに吹けるようになって、ステージにもあがりましたよ。でも、才能はないし音楽自体が好きなわけでもなかったから、29歳くらいで限界を感じました。

佐藤氏: それからどうしたのでしょう。

川岸氏: 職業柄、「マネジャー」っていう仕事は身近に感じていたんだよね。それでバンドを辞めて北島三郎さん、五月みどりさんらが所属するプロダクションに移りました。それが、マネジャーのスタートですね。

佐藤氏: マネジャーになった最初は、どのような仕事をしていたのですか。

川岸氏: テレビ局を回って、アーティストのスケジュール管理をしていました。といっても、マネジャーとしては新人だから、北島さんなどの大物タレントは触らせてもくれない。基本的には新人アーティストの担当ですね。それだから、テレビ局からもろくに相手にされなくて。

 それから約1年後、テレビ局で全く面識のない人から突然肩をたたかれて「藤圭子のマネジャーにならない?」と言われたんです。

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