管理職をイヤがる女性部下 上司に必要な「5つの働きかけ」(2/2 ページ)

» 2024年01月16日 14時15分 公開
[砂川和泉ITmedia]
前のページへ 1|2       

管理職登用時の働きかけが女性の挑戦意欲喚起につながる

 続いて、管理職になるに当たっての女性の不安について見てみよう。女性は「精神的な負担が大きい」「自分の性格に向いていない」「プライベートとの両立ができなくなる」といった不安を抱いている割合が高くなっている。不安を払拭(しょく)して女性の背中を押すには、管理職登用時に上司からポジティブな働きかけを行うことが有効だ。では、上司からどのような働きかけを受けると、管理職をやってみようという気持ちにつながるのか。

 女性の挑戦意欲喚起につながる働きかけとして多いのは、(1)候補となった「理由」、(2)将来に対する「期待」、(3)管理職の「メリット」の3つの伝達である(図3)。

photo 図3:課長登用時に有効な働きかけ 出所:パーソル総合研究所「女性活躍推進に関する定量調査」

 例えば、管理職に向いていることや十分な経験があることを詳細に説明すると、女性の背中を押すことになる。また、上司が本人ならではの期待を伝えることでも意欲を高められる。さらに、給与・手当ての増加や高い視座でやってみたいプロジェクトを推進できるといった裁量余地の伝達も有効だ。

 一方で、意欲を向上させるにもかかわらず、現場ではあまり実施されていない働きかけがある。一つは、本人の不安に対する具体的な支援方法の伝達だ。登用に際して、学校行事に配慮するフォローなど、その後の家庭との両立をサポートする準備があることはもっと伝えられてよい。また、子育てが一段落するタイミングを待つといった登用時期の調整も、女性の不安を払拭する一助になる。

 もう一つは、上層部とのコネクション形成だ。上司のネットワークを通じて上層部との接点をつくってもらえると、女性は自らの昇進を後押ししてもらえる人脈を広げることができる。

 中には、「課長OJT」と称して、課長の権限を持ってチームをまとめる経験を経ることによって、登用後にスムーズに業務を遂行できた例もある。管理職の仕事を事前に経験することは、管理職の働き方への準備になるだけでなく、その上の部長とのコネクション形成にもつながるだろう。

上司の働きかけは管理職として働き続けたい気持ちも高める

 また、管理職登用時の上司からの働きかけは、登用後の就労継続とも関連している。管理職として今後も働き続けたいかを女性課長に聞いたところ、登用時に働きかけを受けた人では、そうでない人と比べて、管理職として働き続けたい割合が1.7倍高くなっていた(図4)。

 さらに、登用時だけでなく、登用後の上司の伴走も不安の払拭につながる。上司が密にコミュニケーションを取り、その時の状況に合わせたアドバイスをしたことによって精神的なプレッシャーを感じずに済む人もいる。

photo 図4:上司の働きかけの有無別 管理職として働き続けたい人の割合 出所:パーソル総合研究所「女性活躍推進に関する定量調査」

 実績・実力があっても自信が持てずに自分を過小評価する傾向は「インポスター症候群」と呼ばれる。インポスター症候群は、社会的に成功した女性に多いという研究がある(注2)。従って、自信が持てない女性も管理職として前向きに進めるように、登用時もその後も上司が女性部下に寄り添ったサポートをすることが大切だ。

(注2)Clance, P. R., & Imes, S. A. (1978). The imposter phenomenon in high achieving women: Dynamics and therapeutic intervention. Psychotherapy: Theory, Research & Practice, 15(3), 241-247.

 このように女性管理職を支えることによる効果があるにもかかわらず、管理職登用時に働きかけを受けていない女性課長は4分の1を占めている。女性を管理職に登用する際には、理由・期待・メリットを伝えることや上層部とのコネクションを形成すること、不安に対する具体的な支援が得られる見通しを与えること、そして、管理職になってからも研修や家庭事情にあわせたフォローを行うことが求められる。

まとめ

photo (提供:ゲッティイメージズ)

 女性管理職を増やすには、まず、上司が女性部下に幹部候補としての期待をかけ、適切な業務経験を付与しながら育成することが必要だ。

 そして、管理職登用時には、自信がない女性部下の気持ちに寄り添い、その部下ならではの活躍に対する期待を伝えるとともに家庭との両立の不安も払拭していくこと。さらに、登用後も女性部下を孤立させずに上司がサポートすること。そうした上司の育成と伴走が女性の管理職への昇進を後押し、管理職としての活躍を支える。

砂川和泉

パーソル総合研究所シンクタンク本部研究員。大手市場調査会社にて10年以上にわたり調査・分析業務に従事。定量・定性調査や顧客企業のID付きPOSデータ分析を担当した他、自社内の社員意識調査と社員データの統合分析や働き方改革プロジェクトにも参画。2018年より現職。現在の主な調査・研究領域は、女性の就労、キャリアなど。

プロフィールページはコチラから。


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.