管理職をイヤがる女性部下 上司に必要な「5つの働きかけ」(1/2 ページ)

» 2024年01月16日 14時15分 公開
[砂川和泉ITmedia]

この記事は、パーソル総合研究所が2023年3月1日に掲載した「女性の管理職への昇進を後押しする上司の働きかけとは」に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。なお、文中の内容・肩書などはすべて掲載当時のものです。


 中長期的な企業価値向上に向けて「人的資本」が重視される中、人材の多様性を示す指標として「女性管理職比率」が着目されている。女性管理職を増やしていくには、女性の採用に加えて、女性社員に対する育成や伴走の視点が欠かせない。企業は女性活躍推進のためにさまざまな人事施策を実施しているが、育成や伴走においては現場の上司が重要な役割を担う。

 パーソル総合研究所が実施した「女性活躍推進に関する定量調査」で女性管理職が少ない要因を考察していくと、女性管理職を増やすに当たって、昇進意欲のなさとともに企業が問題視しているのが女性の「業務経験不足」であった。十分な業務経験を積んだ女性が不足していることが、女性の管理職が少ない大きな要因だと企業側は考えている。

 一方で、女性本人側に目を向けると、女性は管理職になるに当たって多くの不安を抱えている。不安が払拭されないままでは、女性は管理職に挑戦してみようという意欲がわかず、登用されたとしても管理職として働き続けられないリスクがある。

 従って、女性管理職を増やすためには、女性の「業務経験不足」と「管理職になる上での不安」という2つの問題を考える必要がある。結論を先取りすると、これらの問題を解決するためには、いずれも現場の上司の働きかけが重要だ。上司が女性部下に期待をかけて管理職になる上で必要な業務を割り当て、経験不足を解消すること、そして、管理職登用前後のコミュニケーションや女性の不安に寄り添った伴走で女性の不安を低減することが女性の昇進を後押しする。

 そこで本コラムでは、パーソル総合研究所が実施した調査結果をもとに、女性の管理職を増やす上で有効な上司の働きかけについて見ていく。

上司からの期待や業務経験の男女格差是正を

 まず、女性の業務経験不足について見てみよう。男性と比べて女性は、実際にさまざまな業務経験が少ない傾向が見られる。具体的には「転勤」「部門横断的なプロジェクトへの参加」「新規プロジェクトの起案・提案」といった経験が全般的に乏しくなっている(図1)。

photo 図1:業務経験の男女差 出所:パーソル総合研究所「女性活躍推進に関する定量調査」

 なぜ男女で業務経験の差が生じるのか。その一因は、上司からの期待が部下の性別によって異なることにある。女性部下は男性部下と比べて、「現場の戦力」として「職責・職務」に見合う期待はかけられているものの、「将来の幹部候補」としての期待はかけられていないと感じている(図2)。つまり、女性も「期待」自体はかけられているが、その期待は幹部候補としてのキャリアを念頭に置いたものではなく、現場の戦力としての期待にとどまっているということだ。

photo 図2:部下の性別による上司からの期待の違い 出所:パーソル総合研究所「女性活躍推進に関する定量調査」

 そうした幹部候補としての期待の乏しさが女性部下本人の認識だけの問題かというと、そうではない。上司側に聞いても、男性上司は女性部下に対して幹部候補としての期待をかけていない実態がある。女性上司は独身の女性部下には期待をかけるものの、小さな子どもがいる女性部下には期待をかけない傾向がある。

 上司は「小さな子どもがいる女性は大変なので幹部職になるのは大変だろう」と気遣いをしているのかもしれない。しかし、上司が期待をしていなければ、管理職登用につながるような業務の割り当てが少なくなるのは当然だ。幹部候補としての期待がかけられている人では、業務の経験率が全般的に高い傾向が見られる。

 このことから、女性の業務経験不足を解消するには、まず、上司の先入観や思い込みによる「期待」と「業務経験」の大きな男女格差の是正が重要だといえる。女性も将来の幹部候補であるという共通認識のもとで、上司は意識的に業務割り当ての偏りをなくす必要がある。

 例えば、新規の企画提案や他部署と連携が必要なプロジェクトの機会があれば、女性部下の姿も頭に思い浮かべ、そうした仕事を女性にも積極的に割り当てていくことが大切だ。現場の上司任せだと男女格差の是正が難しい場合は、企業主導で女性に経験を与える措置も求められる。

 誤った思い込みに基づく行動で思い込みが現実になってしまう現象は「予言の自己成就」と呼ばれる(注1)。上司が女性部下の管理職登用を想定せずに業務経験を付与しなければ、女性部下は管理職になるための十分な経験が積めず管理職になることが難しくなる。加えて、管理職になる期待をかけられていないと認識している女性部下側も、自分は管理職にはなれないと思い込んで自ら経験を積もうとしなくなり、管理職昇進がより遠ざかってしまうことになる。

(注1)Merton, R. K. (1948). The self-fulfilling prophecy. Antioch Review, 8, 193-21.

 そのため、「女性は管理職にならない/なれない」という誤った思い込みを上司が捨て、女性にも将来の管理職としての期待をかけて業務の割り当てを行うことが女性管理職育成の第一歩である。それによって、管理職となる上で必要な業務経験の男女差は埋められていくだろう。

 さらに、女性に業務経験を積ませる時期も重要だ。家庭内の負荷が女性に偏っている現状では、結婚や出産後の働き方に制約が生じることもある。そのため、育成・選抜・登用のタイミングを早期化し、結婚や出産といったライフイベントの前から幹部候補としての期待をかけて経験を積ませることが必要である。

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