首都圏で急増中のコスモス薬品 物価高を味方にした戦い方とは?小売・流通アナリストの視点(4/4 ページ)

» 2024年01月16日 08時00分 公開
[中井彰人ITmedia]
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プライベートブランドが急伸

 消費者の節約志向はプライベートブランド(PB)商品の動きにも表れている。これまで日本の消費者はナショナルブランド(NB)信仰が強く、価格的に多少安かったとしてもPBよりNBを選ぶという傾向が強いといわれてきた。しかし、収入が増えない中、急速な値上げラッシュが続いたことで、価格が安いPBを購入する人が増えつつある。

 イオンのPBであるトップバリュの売り上げは、今期に入って近年では最高となる前年比11.5%の伸びを示し、今後さらに伸びるという見通しである。イオンは、値上げラッシュが始まってすぐに大半のトップバリュの価格据え置きを宣言。最近では、一部商品において値下げすることも発表している。この選択が功を奏して、これまでは手に取らなかった消費者がPBを選び始めたようだ(図表5)。

cosmos 【図表5】イオン IR資料より著者作成

 スーパー業界でもPBを軸として品ぞろえしている業務スーパー(神戸物産、兵庫県、売り上げ4615億円)や大黒天物産(岡山県、同2422億円)の売り上げも好調に推移している。両社が一般的な食品スーパーを大きく上回って売り上げを伸ばしていることは、図表6でも確認できる。

cosmos 【図表6】各社IR資料、全日本スーパーマーケット協会販売統計より著者作成

 ただ、こうしたPBが売れるようになってきたのは、単に消費者の価格志向が強まったことだけが要因ではない。企業努力によって、PBの品質自体が向上しているという点も評価すべきだろう。

 最大手のイオンは言うまでもないが、業務スーパーなどのPBはこれまでもSNSで「思ったよりコスパがいい」と話題になっていた。業務スーパーは自社内にさまざまな製造工程を包含したサプライチェーンの構築に努めており、生産性を向上させることで安さを実現している。「実際に手に取ってみると十分な品質が感じられてコスパがいい」と評価する人がさらに増えつつあるのかもしれない。

 インフレ環境への転換期に入り、賃金上昇が追い付くまで消費者は節約モードにならざるを得ない。支出頻度の高い生活必需品に関しても、バスケット価格で安さを提供してくれる店を選ぶ傾向はさらに強まっていくことが予想される。

 しかし、安く商品を提供するために、自社の利幅を削るという場当たり的な価格訴求は持続性もなく、続ければ自社の経営を維持できない。フード&ドラッグにしても、PB小売業にしても、安く商品提供できる企業は、相応のインフラ構築による生産性向上が前提となっている。インフラを整備することなく、こうしたチェーンと同じ土俵で持久戦をすることは不可能なのだ。最近、地場中小スーパーの経営破綻のニュースが増えつつある。値上げラッシュは、消費者にとっても、事業者にとっても大きな時代の分岐点となるかもしれない。

著者プロフィール

中井彰人(なかい あきひと)

メガバンク調査部門の流通アナリストとして12年、現在は中小企業診断士として独立。地域流通「愛」を貫き、全国各地への出張の日々を経て、モータリゼーションと業態盛衰の関連性に注目した独自の流通理論に到達。


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