さて、そんな話を聞くとイオンの経営陣や社員の皆さんは「なぜウチだけがリスクを負ってそんなことをしなくてはいけないのか」と腹が立つことだろう。
ただ、残念ながら日本人がこれ以上貧しくならないためには、イオンのような大企業に頑張ってもらって、コストコやイケアのような時給を当たり前にしてもらうしかない。世界では常識の「物価上昇に伴う最低賃金の引き上げ」が、日本では「異端」とされているからだ。
産油国や新興国が経済発展していくにつれて、原料や石油価格は自然に上昇していく。それを受けて先進国も物価が上昇している。食料品や生活必需品が値上がりするわけだから当然、それにともなって消費者の収入も上がっていかなければ景気は冷え込み、経済も停滞するという悪循環に陥る。
だから、多くの国は「物価上昇に伴って最低賃金を段階的に引き上げていく」という手法を取る。例えば、米国では1月1日に、全米50州のうち22州が最低賃金を引き上げた。タイ政府も23年12月26日、最低賃金を24年1月から引き上げる方針を発表。3月にはさらなる引き上げを計画しているという。
ただ、残念ながらわが国では「さ、最低賃金の引き上げだと! そんなことをしたら中小企業がバタバタ倒産して日本はおしまいだ!」という独特の終末思想が社会に定着しているので、こういう政策は「バカがやること」だと却下されている。
その代わりにこの「失われた30年」の間、日本人が信じて一生懸命続けてきたのが「賃金ってのは企業の業績が良くなれば自然に上がっていく」というスタイルだ。
景気が良くなると、トヨタやユニクロが賃上げをする。すると、下請け企業や競合も賃上げをするので、最低賃金が引き上げられ、トントン拍子で賃上げが進むというものだ。
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