「値下げで過去最高益」のイオンが、賃金を上げなければ非常にマズいワケスピン経済の歩き方(6/6 ページ)

» 2024年01月17日 10時14分 公開
[窪田順生ITmedia]
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世界有数の「低賃金国家」でできることは

 トヨタやユニクロのような大企業は、日本企業全体のわずか0.3%にすぎない。99.7%は中小企業で、その中の7割以上は従業員が数名の「小規模事業者」だ。冷静に考えれば、このような全国約280万ある零細企業の給料が、トヨタやユニクロなど大企業の賃上げの影響を受けるわけなどあり得ないが、とにもかくにも日本人はそれが正しいと信じてきた。

 しかし、そんな「信仰」もむなしく、結果は皆さんもご存じの通り、日本は世界有数の「低賃金国家」になった。岸田政権は「賃上げ税制」を打ち出して「今年の春闘は賃金が上がります」と得意顔で言っているが、それは日本企業の0.3%の話だ。99.7%の中小企業の多くは「春闘」も「労組」もない。

どうすれば日本人の給与は上がるのか(画像はイメージ、出典:ゲッティイメージズより)

 こういう八方塞がりの中で、日本人に残された希望は「競争の活性化」しかない。それぞれの地域の中小企業が厳しい競争を繰り広げ、勝ち残ったところが優秀な人材を確保するために時給を上げていく。「コストコやイケアに優秀な人材を奪われないように、ウチも時給1500円からだ」というような中小企業を育成していくのだ。

 そういう「競争の活性化」のためにも、イオングループは「全国一律で高い時給」でなくてはいけない。これまでのように地域の最低賃金ギリギリみたいな求人だと、地場の中小企業は「イオンでも最低賃金なんだから、ウチはもうちょい安めで」となってしまうからだ。

 イオンモール、イオンスタイル、まいばすけっとなど、もはやイオングループは日本全国に張り巡らされたインフラと言っても過言ではない。そのスケールメリットを生かして、「安さ」を提供するのは、確かに消費者的にはありがたい。

 が、そういうビジネスモデルが日本経済を元気にさせたのは、日本の人口が右肩上がりで増えていた時代だ。毎年、鳥取県の人口と同じ数の消費者が消えるこの国で、「安さ競争」は断崖絶壁に向かうチキンレースと同じだ。

 人口が減るのだから、人が生み出す付加価値、つまりは賃金を上げていかなければ日本はどんどん貧しくなる。今こそ流通の巨人・イオンのスケールメリットを生かして「全国一律高賃金」の好循環をつくっていただきたい。

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。窪田順生のYouTube『地下メンタリーチャンネル

 近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受


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