「初動が遅い」「企業は金を取るな」――震災対応への批判から見る、日本のGDPが上がらないワケ働き方の「今」を知る(1/3 ページ)

» 2024年01月18日 07時00分 公開
[新田龍ITmedia]

 元日に石川県能登地方を襲った最大震度7の大地震は、能登半島を中心に深刻な被害をもたらした。

 本稿執筆時点である1月10日現在、石川県内だけで200人以上が死亡し、重軽傷者600人弱、安否不明者52人、約2万6000人が避難中という状況だ。少なくとも1825棟の建物に被害が確認され、県内に存在する漁港の7割にも及ぶ50の漁港で防波堤や岸壁に被害が出ている。

 まずは今般の地震により、被害を受けられた地域の皆様に謹んでお見舞い申し上げる。また、政府や自治体、自衛隊や消防、インフラ関連に従事される皆さま方におかれても、元日からの迅速な災害対策にあたって感謝しかない。1日も早い復興と皆さまのご安全を心より祈念している。

 政府の対応を「遅い」と批判する意見が散見されるが、過去実家で阪神大震災を経験し、出張先の岩手県で東日本大震災に遭遇して避難所生活を送ったこともある筆者の肌感覚としては、現政府の対応は迅速どころか「爆速」といってよいだろう。

画像はイメージ、提供:ゲッティイメージズ

 能登半島地震の当日、午後4時10分に震度7の揺れを記録してすぐ、1分後には総理官邸に対策室が設置された。5分後には被害状況把握、被害防止措置徹底、救命救助に全力で取り組む旨の総理指示を出している。20分後には自衛隊による航空偵察が行われ、35分後には石川県馳知事より自衛隊への災害派遣要請。約1時間後には岸田総理と馳知事が官邸入りし、2時間後には消防庁より複数の都道府県と市に対して出動指示が出ている。

 翌1月2日以降は未明より、出動要請があった各地の消防局が続々現地入りするとともに、救助活動も開始。自衛隊も人員輸送、重機輸送、給水支援、道路啓開、救助活動を開始。DMAT(災害派遣医療チーム)の一次隊も活動を開始している。1年のうち最も休む人が多い元日の発災であることを考えると、この対応は充分迅速といえるだろう。その後の対応状況は、首相官邸防衛省消防庁など各所のWebサイトにて続報が出されている。

 復旧の進捗状況については他のメディアにおいて現在進行形で報道されているので、本稿では視点を少し変え、迅速な災害対応を可能としている「卓越した現場力」と、それをあたかも当たり前のように享受してしまっている「お客様マインド」の危険性、そして日本のGDPはなぜ低いのか、どうしたら上げられるのかについて考察していきたい。

震災対応への批判から見る「ブラック化」の原因

 能登半島では依然として断水や停電が続いており、早期の復旧目処は立っていない状況だ。しかしあまり着目されていないところだが、今般の地震と、2日に羽田空港で発生した日本航空と海上保安庁の航空機が衝突した事故において、半島部以外の主要交通網における復旧作業が信じられないレベルの迅速さで完了したことは特筆すべきだろう。時系列で追っていくと、次の通りだ。

道路

  • 北陸自動車道は地震の影響で通行止めとなったが、翌日2日の午後9時過ぎには通行止めが解除に。一部区間では車線規制をしながら復旧作業を継続していたが、3日早朝までに通行止めの区間がなくなり、全線で通行できるようになった。
  • 能登半島南部から輪島市、珠洲市、能登町へのアクセス道路においても、車幅拡幅などの啓開作業を行なわれ、4日午後3時には作業が完了し、大型車の通行が可能となった。

鉄道

  • 地震の影響で運転を見合わせていた北陸新幹線と北陸線は、いずれも2日に運転を再開し、3日は通常通り運転再開。

航空

  • 日航機と海保機の衝突事故の影響で、羽田空港では全ての滑走路が閉鎖されたが、事故が起きたC滑走路以外の3本の滑走路は2日午後、運用が再開された。
  • 閉鎖されていたC滑走路も、8日午前0時に運用再開され、発着容量は事故前の水準に回復した。

 繰り返すが、1年でもっとも多くの人が休んでいるであろう元日に発生した被害が、わずか数日のうちに復旧しているなど、普段から有事に備えた体制を維持できている賜物であろう。迅速な復旧を可能とした現場の皆さまの尽力には感謝しかない。

各企業の対応

 また、企業の対応についても言及したい。国からの要請を受けて、山崎製パン、敷島製パン、フジパンの3社が急遽被災地への食糧支援に対応。もともと出荷予定だった分に加えて追加生産も行い、菓子パンや総菜パンを中心に、3日時点で計11万5000食を被災地に届けている。その他、日清食品ホールディングスやエースコックがカップ麺を、日本コカ・コーラやサントリーHDなどが水を、ユニ・チャームが生理用品やおむつを届けたことも報道された。

 しかし、これほどまでに献身的に災害対応をする国や関連各所に対して、一部メディアやSNS上では「対応が(過去の災害と比べて)遅い、小規模だ」「首相が新年会に出席したり、休んだりしている」「被災地に物資を提供した企業がお金を取っている」などといった苦言が呈されているようだ。

 災害に直面し、不安になったり焦ってしまったりする気持ちは重々分かるのだが、このような見当違いの「お客様マインド」こそ、わが国の労働環境をブラック化させてしまっている根本的な原因ではないかと危惧している。それぞれに対して筆者の見解を述べていきたい。

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