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「裸の王様だった」 サイバーエージェント新卒社長は挫折から何を学んだのか(2/2 ページ)

» 2024年01月19日 08時30分 公開
[ほしのあずさITmedia]
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メンバーの信頼を得られず、社長失格だった 

 当時、CyberArrowには経験豊富な約20人のメンバーがいた。鈴木さんは代表取締役という立場から、「自分が組織を引っ張っていかないといけない」と思い込んでいたという。

 「メンバーに動いてもらうために『○○さんにこう言われたから』と、自分の意見としてではなくメンバーが納得するような役員の発言として伝えていました。その結果、メンバーからの信頼がなくなっていきました。しかも事業がピボットになったので、誰も自分を信頼していないという状態にまでいきました」

 サービスの可能性を信じて集まってきてくれたメンバーに対して、伝書バト的な立ち回りになってしまっていたわけだ。鈴木さんは、そこから少しずつリーダーシップの在り方を変えていくことに。

 「自分が社長だから」というような先導するタイプのリーダーシップではなく、異なる経験やスキルを持つメンバーをコーディネートするリーダーシップを意識するようにした。任せたいことに合わせてリーダーを決め、各チームがプロジェクトを推進する過程で起こる問題を、鈴木さんがサポートして解決するような体制を取った。

 メンバーを尊重する動きに変えたことでメンバーも鈴木さんの意見待ちになることがなくなり、主体性が生まれた。鈴木さんから指示を下すのではなく、メンバーからの確認や意見も増えたという。

 「メンバーと本音で話し、また自分が一番本気で取り組んでいる姿を見せるようにしました。そうしないと、裸の王様になってしまうと気付いたのです」

 会社を背負う社長や事業責任者には、スキルや経験よりも強い意志や覚悟、ビジョンが大切で、そこに人がついてくる──CyberArrowでのマネジメントを経て、鈴木さんは一つのリーダー像にたどり着けた。新卒数年でこれを実体験として持てる企業はそう多くはないだろう。

サイバーエージェントの「任せる文化」は何を生む?

 鈴木さんは自身の経験を振り返り、「サイバーエージェントの任せる文化」についてこう話す。

 「サイバーエージェントでは、良くも悪くも大きいことを任せられますが、失敗してもそこで終わりではありません。周囲から『じゃあ次これをやってみたら?』『次はこういう風にサポートするよ』といった働きかけが積極的にあります。仕事を任せて、全力でサポートする。社員の挑戦を全員が応援する雰囲気がある、それが強い部分だと思います」

 もちろん、若手社員に手あたり次第任せているわけではない。本人の強みややりたいこと、会社がやってほしいことを掛け合わせ、かつ本人がのめりこめるような領域で抜擢している。

 そのため本人には「任せてもらえた!」という自覚が芽生え、自然と「みんなでこの事業を成功させたい」という当事者意識が生まれる。そして若手の台頭をみんなで喜ぶ。結果、良いサイクルが出来上がっている。

 鈴木さんは22年8月に本社のインターネット広告DX部門に異動した。そこでは、サイバーエージェントがデジタルマーケティング領域で培ってきたノウハウやアセットを活用して他社のデジタルサービスの戦略立案や開発などを行っている。

 「事業をつくりたい」という鈴木さんの思いを知っていた本社の役員から異動の誘いがあったのがきっかけだ。まさに「本人の強みや希望」と「会社の期待」のどちらもを満たせる異動だった。社員一人一人を見て最適な配置を提案できるのは、サイバーエージェントの信頼して任せる文化が生んだのだろう。

 鈴木さんは、入社から今日までの4年間を「社長や企業責任者といった肩書にとらわれていた時期がありました。社長という肩書は手段でしかない。手段と目的をはき違えていたことに気付きました」と振り返る。

 新卒1年目で代表取締役就任、度重なる事業ピボットにマネジメントの失敗、吸収合併の中での事業運営からDXチームへの異動──濃度の高い経験は成長角度を高める。肩書きにこだわらなくなった鈴木さんの挑戦は、続いていく。

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