「行動経済学」という学問をご存じだろうか。聞いたことのある読者もいれば、初めて耳にする読者もいるだろう。人間は自分の利益のために合理的に動くことを前提とする経済学に対して、行動経済学は時に非合理的なありのままの人間を理解し、消費者の行動をひも解く学問だという。
人々は日々の生活において必ずしも「合理的な」意思決定をできているわけではない。「なぜかいつも買ってしまう商品」「なんとなく良いイメージを持っているブランド」など、言語化できない購買行動や意識は存在する。行動経済学は消費者の「なんか良い」センサーを刺激する学問として、ビジネスの世界でも活用が期待される。
今回は、私たちの身近にあるビジネスの疑問を行動経済学の観点からひも解いてみたい。例えば、世界中に多くのファンを抱えるアップル、その「ロゴ」にも行動経済学的な仕掛けが隠されている。
iPhoneにある、アップルのロゴに注目したい。なぜ、あのリンゴのマークは下でも真ん中でもなく、上の方に配置されてきたのだろうか? 米・オレゴン大学にて行動経済学の博士課程を修了し、現在は行動経済学コンサルタントとして活躍する相良奈美香さんに話をうかがった。
その理由について相良さんは「『上』は『強い訴求力』というイメージに結びついているから」と説明する。そして人間が「上」に強い訴求力を感じるのは、重力が関係しているからだという。
人間は常に重力を受けながら生活している。「上」は重力に逆らっている状態を意味し、人間の脳はそれに対して無意識のうちにパワフルな印象を抱くのだという。したがってアップルのような訴求力のあるブランドの場合、上にロゴがあることで納得感が生まれる。
この認識は、アップル製品を愛用していない人にも共通するという。「重力に反する力強さ」は人間のDNAに刻み込まれた認識であり、ブランドへの好みによって左右されにくい。
アップルはブランド力が高いため、ロゴが上にあると納得感を覚える。下にあると、言葉にはできないけど何かおかしいと思うでしょう。商品を手には取るけど違和感が拭えず、棚に戻してしまう――と相良さん。
では、アップルほど訴求力のないマイナーなブランドの場合、ロゴは上に配置しない方が良いのだろうか。
行動経済学的には、答えはイエスだ。まだ誰も知らないマイナーなブランドがロゴを上に配置した場合、消費者は何となく違和感を抱き購買につながりにくいという。最初は下の方にロゴを置き、認知度の向上とともに少しずつ上げていくことがベストとのことだ。
「人間は、自身の購買行動を後押しした理由を言語化するのが実はすごく苦手なんですよね。それを実験などを通じて解明していくのが行動経済学なんです」(相良さん)
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