COP28で産油国が議長に 「化石燃料との決別」が宣言された交渉の舞台裏「化石燃料の段階的廃止」の行方は(1/4 ページ)

» 2024年01月22日 08時30分 公開

 「異論ありませんでしたので、採択致します」──そう言って、議長は木槌を打ち下ろした。2週間の会期を1日延長した12月13日の現地ドバイ時間の午前11時頃、COP28(国連気候変動枠組条約第28回締約国会議)において最大の争点となった議題に関する決定案が採択された。

合意採択直後のCOP28総会(C)Naoyuki Yamagishi/WWF Japan

 この決定には、気候変動に関する国連気候変動会議の歴史上初めて「化石燃料から転換していく(transitioning away from fossil fuels)」という文言で、化石燃料をベースとしたエネルギーシステムからの決別宣言が入った。COP28で「化石燃料からの転換」が打ち出されたのだ。

 気候変動の主原因は、化石燃料燃焼からのCO2排出であることは広く知られている。したがって、化石燃料の使用を削減していくことが対策として必要であり、排出量をゼロにしていくためにはいずれは化石燃料使用をゼロにしていくという意味で、「脱炭素」という言葉も今では広く使われるようになっている。そう考えると、今さら「化石燃料から転換していく」という文言が入ったことの何が新しいのか、と思われる方も多いと思う。

 そこで今回はこの決定の背景とその意義、そして、日本にとって意味するところについて解説をしていく。

2年前に始まった、化石燃料の「段階的廃止」をめぐる戦い

 今回のCOP28で戦われた「化石燃料」をめぐる文言の直接の発端は、2年前に英・グラスゴーで開催されたCOP26の決定に遡(さかのぼ)る。

 COP26の決定において、以下のような一文が盛り込まれた。

「排出削減対策が講じられていない石炭火力発電を段階的に削減(phase down)していく方向への努力を加速することを含む・・・・(技術の普及や政策の策定を加速することを)締約国に求める」

 この一文の盛り込みは、当時も驚きをもって受け止められた。国連の会議であるCOPでは、通常、各国のエネルギー政策にまで踏み込んだ表現を入れることには慎重だった。どのようなエネルギーを、どのように使うかにまで踏み込むことは、各国の主権を侵すことにつながるとして、半ばタブー視されてきたのだ。

 その従来の常識を超えた表現が使われ、それに約200カ国が合意したことは、小さな一文でも、象徴的な大きな一歩として捉えられた。

 ただし、その際にも、当初は「段階的『廃止(phase out)』」という言葉が草案では使われていたものが、石炭への依存度が特に高いインドや、化石燃料全般への影響を恐れるアラブ産油国の強い反対によって、段階的「削減」という弱い表現に落ち着いた経緯があった。

 翌年2022年のCOP27(エジプト・シャルムエルシェイク開催)では、「石炭火力発電」という限定的な範囲であったものを「化石燃料」一般に広げた上で、段階的「削減」を「廃止」(phase downからphase out)に塗り替えようという交渉が行われた。しかし交渉は時間切れで、結局前年の表現を繰り返すにとどまった。

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