みんな「値上げ」しているのに、なぜマックは「もう行きません」と叩かれるのかスピン経済の歩き方(4/5 ページ)

» 2024年01月24日 09時01分 公開
[窪田順生ITmedia]

お咎めなしでも叩かれた「異臭マフィン騒動」

 分かりやすいのが、ちょっと前に大きな話題になった「異臭マフィン騒動」だ。都内の焼き菓子店がイベントで販売したマフィンについて、一部の購入者が食後に気分が悪くなったと声を上げた。SNSでは「糸を引いていた」「ヘンなにおいがした」などの指摘が相次ぎ、腹痛や嘔吐を訴えた人もいた。

 店主が謝罪文などを出したが、謝罪のトーンや説明に納得いかない人々がネットやSNSでボロカスに叩いた。結局、保健所が体調不良を訴えた7人の便を調査したところ、食中毒の原因となる菌が検出されなかったことで、この焼き菓子店はお咎(とが)めなしだった。だが、世論の「市民裁判」では、実名アップや人格攻撃で徹底的に制裁を下されたことは、ご承知の通りだ。

 そういう正義の日本人たちの「食の安全を揺るがした焼き菓子店」への激しい怒りを鑑みれば、28人もの食中毒被害者を出した外食チェーンも「大罪人」のはずだ。しかも、こちらは食中毒が複数の店舗に及んでいるので、チェーン本部の安全管理体制が問われる深刻な問題だといえる。

モスの複数店舗で食中毒が発生した(画像はイメージ、編集部撮影)
「テリヤキチキンバーガー」(出典:モスフードサービス)

 しかし、マスコミはスルーした。マックの時はブラスチック片で朝から晩まで大騒ぎをして、「早く社長を出せ」と絶叫していたのに、食中毒を出したモスに対しては優しいもので、ストレートニュースで軽く触れるのみ。先ほどの記事の中で紹介したが、筆者がモス側に確認したところ、「会見を求めたマスコミはゼロ」だった。

 なぜこんな「不平等」が起きるのか。ストレートに言ってしまうと、マックと比較するとモスは「アンチが少ない」ということが大きい。

 怒りが原動力のアンチは、誰も頼んでもいないのに勝手にそのニュースをネットやSNSで拡散してくれる。視聴率やアクセス数を稼ぎたいメディアにとって、実はアンチは大変ありがたい「最強のインフルエンサー」なのだ。

 マックは値上げだけでも「もう行きません」「クオリティーが低い」などとボロカスに叩く人が多くいるように、同店に憎悪を抱くアンチが一定数存在している。だから当然、マックを叩くような報道をすると、テレビは視聴率が上がるし、新聞のネット記事のアクセスもはねる。

 一方、モスは値上げで「もう行きません」「モスバーガーが440円って高すぎだろ」なんてボロカスに叩く人は少ない。モスに憎悪を抱く人がそれほどいないということは、モスを叩くような報道をしても、視聴率は上がらないし、ネットのアクセスも稼げない。

 だからマスコミとしては、モスの食中毒など騒いでもしょうがないという“大人の判断”になる。逆にマックの場合、アンチが山ほどいるので、虫が入っていたとかネジが入っていたという「日本全国の外食チェーンで日常的に起きている異物混入」であっても、うまく騒げば「列島震撼の大不祥事」に格上げできる。マスコミにとって、こんなに「価値の高いニュース」はないのだ。

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