企業危機管理をする人たちに対して、筆者はよく「メディアの本質を理解すべき」とアドバイスをする。といっても、中立公平がどうしたとか、権力の監視がなんたらという方面の話ではない。
一言で言えば、「メディアも営利企業で、そこで働く人たちもサラリーマンなので、企業としての経済的なメリット、組織人としてのメリットでニュースというものがつくられる」ということだ。
マックやユニクロと同じ不祥事をしたからといって、他社が同じように叩かれるとは限らない。メディア側にも「叩くメリット」がないと叩かないのだ。
そういう感覚を知らず、マニュアル的な対応をすると、明らかに過剰反応になったり悪目立ちしたりしてしまう。つまり、発生した不祥事の中身やインパクトを精査することも大事だが、それと同じくらい「社会やネット世論の反応」を分析して、「メディアが経済的メリットがあると判断して食いつくか」を見極めなくてはいけないのだ。
よく言われることだが、メディアは「感情の増幅器」だ。コロナ報道が典型だが、人々が心配したり怖がったりすることがあれば、さらに不安や恐怖を煽る報道をする。
すると、視聴者や読者は「世間に置いていかれるのが怖い」と必死に食いつくので、視聴率やアクセスが爆上がりしていく。そうなると、番組や記事を担当した者は社内で高い評価を受けるので、もっと不安を煽るVTR、もっと恐怖を煽ることを言う専門家やコメンテーターを登場させる。そして、それを見た人々がさらにパニックへ――という負のスパイラルがコロナ報道では日常的に起きていた。
それと同じで怒りや憎悪があれば、さらにその感情を高めるような情報を提示して、人々を食いつかせようとする力学が働くのがメディアなのだ。
今回、日本中を騒がしている松本人志さんの女性問題報道で『週刊文春』が45万部完売し、電子版の有料会員も増えたことからも分かるように、メディアも営利企業である以上、どうしても「稼げる報道」に力を注ぐ傾向が強い。
裏を返せば、社会的知名度の低い企業、アンチの少ないブランドの場合、不祥事やスキャンダルが発覚しても、有名企業やファンが多いブランドのように叩かれず、先ほどのモスの食中毒のように「スルー」されることもあるのだ。
企業で危機管理やメディア対応をする人は、間違っても「マスコミは中立公正だ」なんて思い込みはしないでいただきたい。
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。窪田順生のYouTube『地下メンタリーチャンネル』
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受
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