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「賃上げできない企業」は今、何をすべきか(1/2 ページ)

» 2024年01月31日 10時15分 公開
[今井昭仁ITmedia]

この記事は、パーソル総合研究所が2023年12月25 日に掲載した「原資が不足する中での賃上げへのアプローチ」に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。


 パーソル総合研究所は、2023年12月に、機関誌HITO vol.21「人事トレンドワード2023-2024」を発刊した。誌面では3大トレンドワードの一つとして「賃上げ」を取り上げた。そこでは、日本の実質賃金が過去25年間上がってこなかった中で、23年に3%を超える賃上げを記録したことを中心に紹介した

 本コラムでは、機関誌では紹介しきれなかったポイントのうち、賃上げを検討する際にしばしば浮上する原資の観点から考えてみたい。

中小企業と賃上げの関係

 賃上げの議論が盛り上がる中で、しばしば感じることは、大企業と中小企業の間にある壁の存在だ。多くの場合、この壁の裏には原資の問題が横たわっている。そのために賃上げに積極的な大企業と、消極的な中小企業という対照性を強調する描かれ方が少なくない。

 この点を確認するために、22年にパーソル総合研究所が行った「賃金に関する調査」の結果を見てみよう。図1が示す傾向は比較的明確で、賃上げに対して中小企業は相対的にコスト意識が強く、大企業では投資意識が強くなっている様子が見て取れる。コスト意識が強ければ賃上げに踏み切りにくくなると考えられるため、図1は上記のような壁が実際に存在していることを裏付けているものと理解できるのではないだろうか。

photo 図1:賃上げに対する考え方(従業員規模別) 出所:パーソル総合研究所「賃金に関する調査」

 しかし、こうした結果を基に、中小企業が賃上げに消極的と批判することは短絡的だろう。先行き不透明な状況で賃上げの意思決定を下すことは簡単ではない。賃上げは原資と密接な関係があるからだ。

 中小企業からすれば、取引先にコスト転嫁を飲んでもらわない限り、賃上げは現実的ではないかもしれない。中小企業が先行投資として賃上げを行ったとしても、取引価格に反映されなければ、現金は枯渇していくからだ。実際、こうした現状を受けて、企業間の価格交渉において、労務費の転嫁を後押しする動きも出てきている。内閣官房と公正取引委員会は、23年11月に連名で「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を策定・公表した(注1)。

(注1)内閣官房・公正取引委員会「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(23年12月15日アクセス)。他にも税制面でも賃上げの後押しが見込まれている。詳細は、日本経済新聞「与党税制大綱決定 賃上げ・国内投資優遇、所得税は減税」(23年12月15日アクセス)。

 政策的な後押しが進められているとはいえ、こうした取り組みの効果が現れてくるまでには時間がかかる。また、価格交渉が進んだとしても、実質的にはこれまでの赤字補填にとどまり、賃上げの原資を作るまでには至らないこともあるだろう(注2)。

(注2)実際、ロイターは同社の調査結果をもとに、来年の賃上げの実現可能な値として「3%未満」が60%と最も多く、「5%以上」に対する回答は5%にとどまったことを報じた。詳細は、Reuters「12月ロイター企業調査:実現可能な賃上げ率、6割が『3%未満』 コスト増が逆風」(23年12月15日アクセス)。

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