総論としては、関東圏の大手私鉄はどこもが輸送人員を減らしている。一般社団法人日本民営鉄道協会が毎年発行している『大手民鉄の素顔』を見ると、コロナ禍前の2019(平成31/令和元)年度には、すでに東京メトロ以外の大手私鉄は前年度から輸送人員を減らしていたことがわかる。そして、コロナ禍ではさらに大きく減らしてしまった。これから先、かつてほどの乗客増が見込める路線はないのである。
ただ、コロナ禍の時期には、これまで都心で暮らしていた人が、住環境を見つめ直して郊外に引っ越す傾向が見られた。
私事ではあるが、2022(令和4)年の秋に東京都郊外の調布市内で引っ越しをした。当時住んでいた物件が建て替えのために取り壊しになるという事情があり、どうしても引っ越さなくてはならなかったのだ。しかし、調布エリアは人気が高まっているため、物件探しには非常に苦労した。こういった「郊外人気エリア」を抱えている路線が、乗客数を増やしていくということは、ある程度考えられるのである。
ラッシュ時の混雑率のデータを見ても、コロナ禍前ほどの回復には至っていない。東急電鉄は、沿線在住者にテレワーク対応可能な仕事の人が多いため、元通りには回復しないと想定している。
ただ、通勤輸送はある程度は復調している。2022年の『大手民鉄の素顔』を見てみると、2021(令和3)年度は2020(令和2)年度に比べて、東急電鉄が11.3%増、京王電鉄は11.2%増、小田急電鉄は10.5%増となっている。東武鉄道は8.6%増、京成電鉄は8.0%増、京急電鉄と西武鉄道は7.6%増、相模鉄道は5.3%増だ。暮らしやすい「郊外」を抱えている路線が、コロナ禍での輸送減のなかでも復調が進んでいるといえる。
テレワーク可能な職種が多く引っ越していったエリアでも、テレワークが終了したら、鉄道を使って通勤する人が増えるだろう。そのような意味では、今後、東急電鉄や小田急電鉄、京王電鉄の乗客が増えていくのではないか、と予想できる。
少子化という観点からは、子育て世代が住みよいエリアを抱える路線が乗客数を増やしていくと考えられる。
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