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大卒の初任給引き上げ、ツケは「中高年層」に 解決策はないのか労働市場の今とミライ(2/2 ページ)

» 2024年02月29日 08時30分 公開
[溝上憲文ITmedia]
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ジョブ型賃金の導入も進む

 では、他に方法はないのか。大企業を含めて中高年層の賃金の上げ幅を抑制し、その分を若手層に充当する方法である。その1つの仕組みが「職務給」と呼ばれるジョブ型賃金である。

 ジョブ型はスキルや職責に応じて賃金が決まる脱年功賃金である。年齢に関係なく、その人が持つスキルなどによって給与が決まる。また、毎年一定額ずつ昇給する年功的な定期昇給制度を廃止し、人事評価によって昇給額を決定し、評価が悪ければ昇給なしという制度に切り替えている企業もある。

 日本能率協会の「当面する企業経営課題に関する調査」(2023年8月21日)によると、すでに「ジョブ型」の人事・評価・処遇制度を導入済(または導入中)の企業は22.3%、導入を慎重に検討中の企業が42.4%となっている。初任給の引上げや賃上げも含めた人件費増加を見据えて、ジョブ型賃金に踏み切った企業も多いかもしれない。

ジョブ型の人事・評価・処遇制度の導入の状況・検討の有無(画像:日本能率協会「当面する企業経営課題に関する調査」より)

 その結果、今まで年功で上がっていた中高年の賃金が抑制される効果も生む。従来の年齢や勤続年数とともに右肩上がりに上昇していた賃金カーブは緩やかに下降してくることになるだろう。若手社員層と中高年層の賃金が同じになることはないにしても、給与差が縮小していくことになる。

 その動きはすでに起きている。年齢階級による賃金カーブ(所定内給与、男女計)は20〜24歳を100とした場合、1995年は45〜49歳は191.0だったが、2022年は159.8にまで下がっている。50〜54歳は1995年に194.4と、約2倍だったが、2022年は166.9となっている(労働政策研究・研修機構調査)。

 男性の場合は以下のグラフを参照していただきたい。1995年は45〜49歳は206.2と、20〜24歳の2倍の賃金をもらっていたが、2022年は176.0にまで下がっている。50〜54歳も1995年に212.2と2倍超の賃金をもらっていたが、2022年は186.3にまで下がっている。

賃金カーブに変化が見られる(画像:労働政策研究・研修機構「早わかり グラフでみる長期労働統計」より)

 こうした傾向は大幅な賃上げとなった23年の調査(第46回「勤労者の仕事と暮らしについてのアンケート調査」)でも分かる。連合総研の調査では、1年前と比較した賃金収入の変動幅と物価上昇幅の差についても聞いている。

 「賃金収入の変動幅は、物価上昇より大きい」、つまり賃金上昇が物価上昇を上回っている人の割合は20代は10.9%、賃金と物価の上昇幅が同程度の人が22.1%となっている。少なくとも物価に見合う賃金を受け取った人は33.0%もいる。それに対して40代は物価を上回る賃金をもらった人は6.0%、同程度の人が15.9%。計21.9%にとどまる。50代は物価を上回った人はわずかに2.8%、同程度が12.6%。計15.4%にすぎない。

賃金収入の変動幅と物価上昇幅の差(画像:連合総研「第46回 勤労者の仕事と暮らしについてのアンケート(勤労者短観)」)

 つまり世の中では「大幅な賃上げ」と言われているが、賃上げの原資が若年層に手厚く配分され、中高年層に薄く配分されていることを示している。当然、初任給の高騰もそれに拍車をかける。初任給を引き上げた結果、30代前半までは賃金の補正によってその恩恵を受けるが、中高年層への配分がますます少なくなる可能性もある。

 40歳以上といえば子育て世代でもある。まだまだ教育費にお金がかかり、物価上昇を下回る給与しかもらえなくなれば生活も苦しくなる。晩婚化の傾向の中で、子どもを持つことを諦める人も出てくるかもしれず、少子化にも拍車がかかる。

 初任給の引き上げは結構なことではあるが、同時に中高年層の賃金がこれ以上減ることがないように配慮する必要があるのではないか。

著者プロフィール

溝上憲文(みぞうえ のりふみ)

ジャーナリスト。1958年生まれ。明治大学政治経済学部卒業。月刊誌、週刊誌記者などを経て独立。新聞、雑誌などで経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。『非情の常時リストラ』で日本労働ペンクラブ賞受賞。


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