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大卒の初任給引き上げ、ツケは「中高年層」に 解決策はないのか労働市場の今とミライ(1/2 ページ)

» 2024年02月29日 08時30分 公開
[溝上憲文ITmedia]

 賃上げ機運が高まりを見せる中、大卒初任給の引き上げを表明する企業が相次いでいる。前回の記事に書いたように、4〜5年前の大卒初任給は20万円が相場だったが、今では大企業の初任給は25万円が相場になりつつある。

 最近では、オリエンタルランドが4月入社予定の大卒・大学院卒の初任給を25万5000円と、1万7000円(7%アップ)も引き上げる。アシックスも4月から前年比5万3000円(24%)引き上げ、大卒初任給を27万5000円にする。

 もちろん目的は人手不足の解消と優秀な人材の獲得だ。それは大企業に限らず、中堅・中小企業も初任給引き上げ競争に追随せざるを得ない状況に陥っている。

引き上げられ続ける大卒初任給、企業はそのトレンドに追随できるのか?(画像:ゲッティイメージズより)

異常な賃上げ率 副作用は中高年層に

 以前は大企業も中小企業も一律20万円が相場だったが、2万円上がり22万円になれば賃上げ率は10%になる。3万円アップの25万円になれば、12%の大幅な賃上げ率になる。昨年の平均賃上げ率が3.58%(連合集計)だったことを考えると、まさに異常な賃上げ率といえる。

 しかし、初任給だけを大幅に引き上げれば副作用も発生する。初任給が21万円だった時代は毎年1万円程度昇給し、30万円前後が大卒30歳の平均給与だった。初任給が25万円になると入社3年目の社員、28万円だと6年目の社員の給与と同額になる。当然、先輩社員から「どうして新人の給与と同じなんだ」と、不満が爆発する。実際に中小企業では初任給を引き上げたために20代の社員の給与と同じになり、モチベーションが低下したという話も聞く。

 そうならないためには、初任給をベースに年齢ごとの給与を引き上げる必要がある。初任給に応じて少なくとも管理職手前の20〜30代前半までの給与テーブルの補正が必要になり、その分、人件費は膨らむ。

 中堅・中小企業を対象に複数の会社の人事業務を担っている人事コンサルタントは「中小企業の経営者は人材を獲得するためにとにかく初任給を上げないといけないと考える。しかし当然、在籍している社員の賃金表も見直さなければいけない。下を引き上げると、上も引き上げないといけなくなり、頭を抱えてしまう」と話す。

 また、従業員500人規模の中堅企業では初任給を引き上げることを前提に賃金制度改革を実施している最中だと言う。

 「若手社員の全員を一律に引き上げてしまうと、人件費が増える。限られた人件費原資を増やさないために、活躍している社員と、そうでない社員の賃金の上げ幅を変える人事評価の仕組みを検討している。ただし、その場合に肝になるのは上司がちゃんとした評価ができるかどうかだ。これまで年功的昇給を続けてきた中堅企業にとってはハードルが高い」(人事コンサルタント)

 特に中堅・中小企業の製造業では、毎年一律に上がる年功的給与制度を導入している企業も多い。人事評価制度によって個々の給与の上げ幅を大きく変えるとなると、評価する管理職の負担も増えることになる。

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