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「リスキリング後進国ニッポン」で成功するために、必要な2つの戦略(3/4 ページ)

» 2024年03月06日 10時40分 公開
[神田靖美ITmedia]

日本はリスキリング後進国

 翻って日本には職業移行計画も職業大学もありません。いったん学校を卒業して職業に就いた人が、職場が行う教育訓練は別として、異業種の職業訓練を公然と受けたり、休職して通学したりすることは極めてまれです。

 厚生労働省「平成30年版労働経済の分析」によると、日本のGDP(国内総生産)に占める、企業の能力開発費の割合は、2010〜14年の実績で0.10%。米国は2.08%、仏国は1.78%、独国は1.20%、英国は1.06%です。日本の水準の低さが際立ちます。

 パーソル総合研究所の「APAC就業実態・成長意識調査(2019年)」によると、「社外学習・自己啓発を行っていない人の割合」は、日本は46.3%で、APAC(アジア太平洋地域)14カ国・地域で最大です。2位のニュージーランド(22.1%)を大きく引き離しています。

photo パーソル総合研究所「APAC就業実態・成長意識調査(2019年)」より引用

 経済産業省の「未来人材ビジョン(令和4年5月)」は、日本は「企業は人に投資せず、個人も学ばない」と結論付けています 。リスキリング後進国と言わざるを得ません。

 日本でも経済産業省が「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」を行っています。転職を希望する在職者に対し、プログラミングやWebデザイン、医療、介護・福祉、保育などの分野の、指定する講座を提供し、最大56万円まで受講費用を補助するという制度です。修了後には転職の支援もします。

 しかし、キャリア形成を専門とする法政大学の佐藤厚教授は、日本においてリスキリングによる労働移動は、企業内の異動にとどまるだろうと予測しています。労働移動に成功している欧米諸国に比べて、転職未経験者の比率が高いこと、教育訓練に対する労働組合の関与度が低いこと、仕事と教育との関連が弱いこと、職業教育訓練は企業主導で行うべきものであるという伝統があることなどがその理由です。この予測が正しいとすると、リスキリングを行わない企業に勤めている人は当分の間、リスキリングを行う機会がなく、職種転換をすることもできないということになります。

 スキルにはどの企業でも使える「企業一般的」スキルと、特定の企業でしか使えない「企業特殊的」スキルに分ける考え方があります。人は所得のほとんどを企業特殊的スキルから得ていると言われます。

 そうであれば、企業にとって合理的なのは企業特殊的スキルの教育訓練だけを行うことです。教育訓練が企業主導である限り、転職を促進するようなリスキリングは一般化しないでしょう。

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