優秀な若手がどんどん辞めていくが、「社内運動会」をやっても防げないワケスピン経済の歩き方(4/6 ページ)

» 2024年03月06日 08時30分 公開
[窪田順生ITmedia]

若手社員が会社を選ぶ基準

 さて、こういうルーツが分かれば、「社内運動会で若手の離職を防ぐ」というのが難しいと分かっていただけたのではないか。

 先ほども申し上げたように今、多くの若手社員が会社を選ぶ基準は、自分の勤務時間、自分の給料、自分のやりがい、自分の成長など「自分」だ。しかし、社内運動会というのはその「自分」を殺して、「組織」に献身することこそが正しいのだということを、スポーツや運動を通じて教育させるものだ。若手社員の中で一定数の人が嫌がる「昭和の価値観」を押し付けている側面がそこにはある。

若手社員は「自分」基準で会社を評価する傾向にある(画像はイメージ、出典:ゲッティイメージズ)

 もちろん価値観は人それぞれなので、すべてがそうとは言えない。社内運動会を開催することで「オレが求めていたのはこういうことだ。よしっ、定年まで絶対にこの会社で勤め上げるぞ!」と感じるような若手社員もいるだろう。ただ、居心地のいいホワイト企業をあっさりと辞めてしまう優秀な若手がいるのも事実だ。彼らのような価値観からすれば、社内運動会はだいぶ隔世の感がある取り組みだと言わざるを得ない。

 では、どうすれば若手社員の離職を防ぐことができるのか。彼らが失望をする「居心地がいいけれど成長が実感できない企業」というのは、分かりやすく言えば「大企業病」なので、これをどうにかして防ぐことができれば、優秀な若手も定着するということだ。実はその答えを述べているのが、パナソニックの創業者・松下幸之助氏である。

『不安定な要素を創らんといかん、ということになるんや。「安定してるけど安定させない」。それが大企業病を克服するひとつの方法であるわけやな』(東洋経済オンライン 17年3月3日)

 会社というものは大きくなることを目標とするものだが、一方で大きくなると安定するので社員が傲慢(ごうまん)になり、経営もずさんになる。そして何よりも「自由」がなくなる。

『自由というものは、完全な安定の中には存在しない。ということは、どういうことかというと、あんまり安定してしまったら、自由が失われる、活発には動けんということやな』(同上)

 そして、この「自由」を失った大企業は、大企業病に陥る。だからそうならないように、あえて「不安定」を創り出すことこそが経営だ、と松下氏は語っているのだ。

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