なぜ私たちは働きづらいのか 「働き方の壁」を言語化して初めて分かること働き方の見取り図(3/3 ページ)

» 2024年03月14日 07時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]
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「仕事一択」を前提としたマネジメントの限界

 かつての家庭は、男性が正社員として働き、女性は専業主婦となって家を守る性別役割分業モデルが基本でした。女性は結婚すると夫に養われ、親や親せき、会社の上司などから「旦那さんが仕事に専念できるように、家をしっかりと支えてね」と要求されました。

 正社員と呼ばれる働き方は期間も職務も勤務地も無限定で「24時間タタカエマスカ」が流行語になったように、長時間労働を余儀なくされます。仕事のためだけに100%時間を使える“仕事一択”状態こそが、標準のワークスタイルだと見なされてきました。

 職場の要望に従って残業や転勤は当たり前で「自分にとって最適な働き方を選択する」という考え方自体がありませんでした。つまり、働き方の壁とは、長い間、仕事一択状態を当たり前に受け入れてきた多くの働き手にとって、認識する必要性を感じる機会すらなかった壁なのです。

写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

 ところが、家庭のあり方は徐々に変化し、女性は仕事と家庭を両立させるマルチタスクへ移行していきました。一方で、男性は引き続き仕事に専念し続けるシングルタスク状態であり、シングルタスクとマルチタスクかけあわせ型の家庭が多く見られるようになりました。

 仕事のためだけに100%時間を使える男性の働き方がいまも標準視される一方、マルチタスクをこなす女性の働き方は特殊と見なされてきました。ところが、時代の流れは、夫婦がともに家事や育児に携わり、誰もがワークライフバランスをとり、副業することが珍しくない方向へと進んでいます。

 今後、そのように夫婦ともマルチタスクかけあわせ型の家庭が増えていくと、仕事のためだけに100%時間を使うことができる働き方の方が特殊と見なされていくことになります。そして、仕事と家庭、本業と副業など、両立して働く方が標準の働き方と認識されるようになっていきます。

 働き手の志向は、どんどん多様化しています。既に、主婦層以外にも周りにたくさんの働き方の壁を感じる働き手は少なくありません。ところが、多くの職場ではいまも仕事一択を前提としたマネジメントが行われています。

 こうした前提が修正されないまま、仕事のためだけに100%時間を使える状態を標準と見なすマネジメントが続けば、働きづらさを感じる働き手がますます増えていき、生産性にも望ましくない影響を及ぼすのではないでしょうか。

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