フルタイムで働く人の2023年の平均月給は、過去最高の31万8300円――。
厚労省が1月24日に発表した「賃金構造基本統計調査」の速報値です。前の年から2.1%上昇し、これは94年の2.6%増以来、29年ぶりの高水準だといいます。賃上げ機運の高まりが背景にあるとみられています。
一方で、この数字に納得感を持てた人は果たしてどれくらいいるでしょうか。23年以降賃上げの機運自体は非常に望ましい形で醸成されつつあります。しかし、その内実は本当に喜べるものなのでしょうか。気がかりな点が多く残っています。
ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総研』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ約50000人の声を調査したレポートは300本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。
現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。
23年は賃上げラッシュの1年となりました。
労働政策研究・研修機構のまとめによると、資本金10億円以上で従業員1000人以上の労働組合のある企業364社の賃上げ率は3.6%。およそ30年振りの水準となりました。グラフを見ると、22年から23年にかけて一気に上昇しているのが分かります。
さらに今年の春闘では、連合がベースアップと定期昇給を含めて5%以上、繊維などの産業別労組UAゼンセンは6%基準の賃上げ要求方針を決定しています。
一方で、サントリーホールディングス7%、大和証券も7%、日本生命も営業職員を対象に7%と大手企業を中心に、既にそれらの要求水準を上回る賃上げ方針を表明している会社も少なくありません。
いま、賃上げは会社にとっても社員にとっても最優先課題であることは事実です。背景には、大きく2つの理由があります。
まずは、物価高。厚労省の毎月勤労統計調査によると、23年11月の実質賃金は前年同月比で-3.0%。20カ月連続でマイナスです。その間の現金給与総額は前年同月比でプラスになっているものの、給与の伸びが物価上昇のペースに追いついていません。人々の生活は苦しくなるばかりです。
一方で、物価高は資材などのコスト全体を引き上げて経営を圧迫しています。そこに賃上げも重なるとなれば、会社の財務状況はさらに厳しくなります。その点を踏まえると、物価高が理由の賃上げは会社のためというより、基本的には生活が苦しくなるばかりの社員のためだと言えます。
もう1つの理由は人手不足です。コロナ禍で人員を減らさねばならなかった業種も、新型コロナの5類移行を機に人員確保に動いています。また、人口減少で採用難は慢性化し、社員の維持と採用力強化はいまや多くの会社にとって存続に関わる課題です。人手不足が理由の賃上げは、会社を守り競争に勝つためという側面が強いと言えます。
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