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【24年4月】障害者雇用率はどう変わる? 法改正のポイントと中小企業が取るべき3つの対応障害者雇用法が改正

» 2024年03月21日 09時30分 公開
[戸田幸裕ITmedia]

 2024年4月より、障害者雇用に関する3つの法律「障害者雇用促進法」「障害者差別解消法」「障害者総合支援法」の改正法が施行されます

 今回は、企業の障害者雇用に対する措置を定める法律で影響が大きい障害者雇用促進法の主な改正点と、中小企業の障害者雇用に与える影響や今後のポイントについて解説します。

【何が変わる?】ポイントは「雇用率引き上げ」と「より短時間勤務でも雇用率に算入」

 障害者雇用促進法の主な改正ポイントは2つあります。

photo 障害者雇用法の改正ポイント(提供:ゲッティイメージズ)

 まず、最も大きなポイントは「障害者雇用率(法定雇用率)の引き上げ」です。民間企業は2.3%から2.5%へ。さらに26年7月からは2.7%に引き上げられることが決定しています。

 引き上げによって、常時雇用する労働者が40人以上の企業に、障害者雇用義務が発生します。26年4月以降は37.5人以上の企業が対象に。これまで雇用義務がなかった企業も、本格的に雇用に取り組む必要があります。

 次のポイントは「短時間勤務者の雇用率算入」です。これまでは週所定労働時間が10〜20時間未満の精神・重度身体・重度知的障害者は法定雇用率の算定対象外とされていましたが、今回の改正で実雇用率に算入することが認められることになりました。

photo 週所定労働時間が10〜20時間未満の精神・重度身体・重度知的障害者についても法定雇用率に算入されることに/厚生労働省が発表した各年度の「障害者の職業紹介状況等」のデータを基にパーソルダイバースが作成

 また、週所定労働時間が20〜30時間未満の精神障害者を1人としてカウントする特例措置が23年1月より施行されていますが、こちらは引き続き延長されます。

【どんな影響がある?】除外率の引き下げで、採用は難化が予想される

 さらに、25年4月から「除外率の引き下げ」があることも抑えておく必要があります。

 除外率とは、障害者の雇用が一般的に難しいとされる業種(船舶運航や道路旅客運送業、建設業などの一部の業種)を対象に雇用義務の軽減を認める制度です。2010年以来、実に10年以上ぶりに、一律10ポイント引き下げとなることが決定しています。

 例えば従業員1000人の建設業の企業の場合、建設業界の除外率は20%ですので、法定雇用人数は1000人から20%分を除外した人数である800人に対し、2.3%をかけた18人です。これが、25年4月以降は除外率20%から一律10%の引き下げとなるため、分母は900人となり、法定雇用人数は20人となります。

 対象となる産業は従業員数が多い企業も多く、採用活動が活発化すると思われますが、それによって採用競争が加熱し、その他の業界でも求める障害者の人材獲得が難しくなるなどの影響が予想されます。採用競争において大企業を相手取らなければいけない都市部の中小企業にとっても影響は大きいでしょう。

【同時に変わる法律をチェック】「障害者差別解消法」と「障害者総合支援法」も24年4月に改正法が施行

 また、障害者差別解消法と障害者総合支援法も4月から改正法が施行されます。

障害者差別解消法:障害者への合理的配慮が「法的義務」に

 障害者差別解消法では、事業者による障害者の合理的配慮の提供が「努力義務」から「法的義務」になります。

 一例として、難聴や弱視の障害者に対するコミュニケーションの配慮や、肢体不自由の障害者に対する物理的環境の配慮など、当事者と企業が合意の上、合理的配慮を確実に実行する必要があります。

障害者総合支援法:支援体制の整備や制度化

 障害者総合支援法では、地域の障害者や精神保健に関する課題を抱えた障害者への支援体制整備や、就労アセスメントの手法を活用した支援の制度化などが盛り込まれています。

【なぜ施行される?】企業を取り巻く障害者雇用環境と、改正法施行の意義

 日本の障害者雇用はこれまで、雇用対象や雇用数を拡大する方針のもと、障害者雇用数の量的拡大が進みました。しかし、その動きを牽(けん)引しているのは従業員1000人以上の大企業であり、中小企業では障害者雇用は十分に進んでいるとは言いがたい状況です。

 厚生労働省が毎年発表している「障害者雇用状況の集計結果」によると、大企業の実雇用率は法定雇用率を上回る一方、中小企業は常に下回っている他、一人も雇用していない“障害者雇用ゼロ企業”も多く見られます。

photo 厚生労働省が発表した令和5年度 「障害者雇用状況の集計結果」より、従業員数を軸に1000人以上を大企業、1000人未満を中小企業と定義して分析。パーソルダイバース作成

 さらに、短時間でも働きたい人が増えてきており、安心して就業継続できる状況の実現が求められていることや、障害者も企業活動を担う戦力人材として活躍し、価値を発揮する“雇用の質の向上”への要請も強まっています。

 今回の改正法施行は、雇用主である企業に対し、従業員規模にかかわらず雇用を推進すること、働きたい人への機会を増やすこと、そして、一人一人が能力を開発して活躍できること(職務能力の向上)を要請していると言えます。

【どう対応する?】中小企業が障害者雇用を進めるための3つのポイント

 障害者雇用に取り組む企業に対し支援を行っている当社にも、今回の施行を受け、企業の採用担当者から「採用競争が激化する中、求める人材に来てもらうためにはどんな施策が必要なのかが思い付かない」「職場や仕事の数が限られ、従事してもらう仕事や配属先が見いだせない」「求められる配慮事項に対して、会社として柔軟に対応できるか? 設備や環境、制度など多方面で懸念がある」などの相談が寄せられています。

 障害者の就業機会がさらに広がることは、とても意義深いことです。一方で、採用した障害者が安心して働き、活躍するためには、業務創出や環境整備、マネジメントなどにおいて企業努力が不可欠です。特に中小企業の中には、本格的な障害者採用はこれからという企業も多いでしょう。社内に知見がない中でどう進めていくのか、手探りの状態が続くと思われます。

 そうした中小企業が抱える課題を克服するためには、以下のポイントが参考になるでしょう。

(1)外部の知見を活用し、固定観念やバイアスを取り除く

 まず「外部の知見を利用する」ことです。十分に試行錯誤した上で悩まれている担当者の方も多いと思いますが、雇用経験が少ない中で行き詰まっている企業の場合に有効です。

 「そもそも、どのような障害があり、どういう配慮を求めている人が、どんな仕事で活躍しうるのか」という知見が社内に少ないことで、例えば「〇〇障害の人は××はできない」という固定観念やバイアスが発生しているケースも少なくありません。

 障害があるから補助的な仕事しかできないという考え方も、よくある思い込みだと言えます。ハローワークなどの公的機関や障害者雇用を支援している業者などから成功事例やノウハウを集め、可能性を見いだしていくことが有効です。

(2)助成金の活用を検討する

 4月から新たに「障害者雇用相談援助助成金」の支給が始まります。これは企業が、障害者の新たな雇い入れや雇用の継続が図られるよう、一連の雇用管理に関する相談援助事業を実施した事業者に助成金を支給するというものです。

 企業規模は問いませんが、特に中小企業の雇用支援拡充を意図して設定された制度であるため、中小企業が障害者雇用支援業者からの相談援助を受けられる機会が増えるでしょう。雇用経験が限られ、個別性の高い課題を抱えている中小企業は、幅広い知見と実績を持った業者の支援を活用してみるのも良いでしょう。

(3)「あれもこれもできる人」ではなく、ワークシェア的発想で業務を作り出す

 求める人材要件の水準が高いことで人材が見つからない、採用できないというケースもよく見られます。中小企業の場合は1人の社員が複数の業務を担っていることが多いですが、既存社員のそうしたパフォーマンスを前提とした人材探しは難しいでしょう。

 「1人であれもこれもできる人」ではなく、いろんな役割を担っている人の仕事の一部を担う“ワークシェア”のような発想で業務を創出し、人材を探すというやり方も有効なアプローチの一つです。

 あるサービス業の企業事例を紹介します。従業員120人規模のこの企業では、デスクワークに従事する障害者の採用を行うことになり、どのような人材を採用すべきかについて、採用担当者とミーティングを重ねました。

 その結果「会社のカルチャーに合わせられるような、固定観念のない若い人が欲しい」という結論に達しました。その観点から選考を進めた結果、当初は対象としていなかった知的障害のある方を採用しました。

 よく「知的障害のある方には事務作業は難しい」というイメージを持たれることが多いですが、障害に捉われず、自社で活躍できる人材かどうか、で選考活動を進めたことで、採用成功に至ったと言えます。

まとめ

 中小企業と大企業。豊富な雇用知見を持つ企業と、これから本格的に取り組む企業。ともに何らかの雇用課題を抱えているとはいえ、立ち位置に相応の開きがあります。

 特に中小企業は前述の通り、採用競争や業務創出という面で、外部の知見や支援を得ながら、その可能性を切り開いていくことが重要です。

 一方で大企業もまた、戦力化・能力向上の実現が迫られます。今回の改正法の施行をきっかけに、それぞれの企業努力によって多様な障害者が働く機会を得て価値を発揮し、企業活動に貢献する。その姿が障害者雇用における一つのゴールと言えるのではないでしょうか。

著者プロフィール

戸田 幸裕(とだ ゆきひろ)

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パーソルダイバース株式会社 人材ソリューション統括本部 人材ソリューション本部 人材紹介事業部 ゼネラルマネジャー

大学卒業後、損害保険会社にて法人営業・官公庁向け営業を経験。2012年、インテリジェンス(現パーソルキャリア)へ入社し、障害者専門のキャリアアドバイザーとして求職者の転職・就職支援に携わったのち、パーソルチャレンジ(現パーソルダイバース)へ。2017年より法人営業部門のマネジャーとして企業の障害者採用支援を担当。その後、インサイドセールス、障害のある新卒学生向けの就職支援の責任者を経て、2023年より現職。国家資格キャリアコンサルタント、障害者職業生活相談員資格保持。

パーソルダイバース株式会社

パーソルグループの特例子会社として「障害者雇用を成功させる。そして、その先へ。」をミッションに、障害者の多様なはたらき方とはたらく可能性の創出に取り組む。グループ内外の企業や地域と連携した多様な業務受託サービスを展開するほか、国内最大級の求人・登録者数を持つ障害者のための転職・就職支援サービス「dodaチャレンジ」、就労移行支援事業所「ミラトレ」「Neuro Dive」を運営。

障害者雇用に取り組む法人企業に対しては、パーソルグループ特例子会社として培ってきた雇用ノウハウと、3000社以上の障害者雇用支援で培ったノウハウをもとに、雇用計画の戦略立案から人材紹介、採用支援や定着支援まで、幅広い支援やコンサルティングを提供している。

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