自動車記事を書く時の3つのポイント池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/6 ページ)

» 2024年03月25日 12時19分 公開
[池田直渡ITmedia]

時系列でチェックせよ

 さて、そして背景説明が終わったらいよいよクルマの話である。普通は初めてのクルマに乗る前にぐるっとクルマを見るだろう。だからそこから入る。大きさや印象がどうか。ただしデザイン論みたいな深みに入るのはここではない。というか深いデザインの話は機能の話と分けて、デザインそのものを主題として書かないと収まりがつかない。だから本当に第一印象でいい。思った通りのことを書けばいいのだ。

 次にドアを開けて座る。最初にすることはシート合わせ。それが済んだら、当然着座環境のチェックである。ペダルやステアリングのオフセット、シートの出来や視野のチェック。空間設計はちゃんと気持ち良いものになっているか。あるいは簡単な内装の印象もここに入る。

マツダ「MX-30」の運転席。第6世代以降のマツダ車は、ペダル配置とステアリングのオフセットに関して良い方の基準と考えていい。可能なら一度運転して確かめておくといい

 エンジンを始動。BEVやHEVならインジケーターが点くだけで何も起こらないが、ICEならエンジンの振動や音を検分する。昨今のクルマはこの段階にならないとインパネモニターのデザインがチェックできない。なのでそこに気になることがあればここで触れる。

 走り出す時、一番肝心なのはトルクの出方だ。適切でリニアなものになっているかを確認する。ここがダメなクルマはたぶんその後どこが良くても厳しい。街乗りでノンストップはあり得ないので、停止から発進の度に違和感を覚えるからだ。そして駐車速度でのブレーキのリニアリティ、ちゃんとカックンとならずに速度の微調整ができるかどうかだ。リニアリティの話は過去記事に詳しく書いている

マツダのSKYACTIV-Xは、ソフトウェアのバージョンアップとなる「スピリット1.1」で、過渡期においてトルクの付き方のリニアリティを向上させることを、強く意識して改良された

 道路に出たら、市街地速度で、もう一度トルクとブレーキをチェック。ステアリングのリニアリティもここで見る。路面の悪いところで、ステアリングコラムの剛性を確認する。ハンドルが振動をどの程度拾うか、そして操舵感は滑らかかどうか。

 それからはコース次第だが、もし多少なりとも曲がりくねった道があれば、路側の白線をトレースして走ってみる。むしろ本格的な山間地のワインディングより、川沿いの道路のような、ゆるやかで不規則な曲がり方かつ、制限速度が時速50キロ以下程度の道の方がハンドリングの良し悪しは分かりやすい。

 理系の人には周期と振幅が一定の屈曲路、例えば一般的なパイロンスラロームみたいなコーナーはNGと言えばいいだろうか。ショートカットしたりせず、左前輪が白線を正確になぞれるかどうかを確認する。ただし公道なので、線の上にタイヤを乗せると周囲のクルマからみて動きが怪しく、迷惑をかけるので、現実的には白線と左前輪の間隔を常に等間隔に保つようにするのだ。速度は出す必要なし。ゆっくりで構わない。何台か試すと、簡単にトレースできるクルマと難しいクルマがあることが分かる。

 信号の停止ではもう一度ブレーキのリニアリティを見る。駐車場で確かめた時より少し速度が高いはずだ。一般道の普通の速度で頭に描いたイメージ通りに減速するかどうかと、停止直前にカックンが来ないことの確認である。

 またそこそこ大きな段差があれば、というのは、例えばコンビニの入り口の歩道の段差とかでもいいのだが、少し斜めに昇降して、ボディ剛性を確認する。これは徐行速度でいい。速度制限の許す範囲での追い越し加速やスタート加速が足りているかも確かめる。

 最後はバイパスやできれば高速道路で、直進安定性をチェックする。自分しか乗らないのならいつも通りの運転でいいが、家人が運転したりするなら、修正舵を少し遅らせて修正を大きくしてみると、そこで反応が変わるクルマがある。これは自分が疲れて運転している時の状況を確認するためにも役に立つ。発着点に戻ったら、ユーティリティの確認だ。荷室や収納、シートアレンジはここで見る。

 という具合に基本、時系列で見ていくことになるのだが、これを全部ちゃんとやるとかなり長くなる。そういう時には対決の構図を前提にどこを端折るかを考えて削る。

 そしてクルマ全体の個別の検分が終わったら総論だ。全体を通して、どこに光るものがあったか、どこに欠点があったかを考えて、総合的に結論を下す。ここは素直さが大事。腕組み系のラーメン屋亭主みたいに苦虫を噛(か)み潰した苦言を書きたいのだとしたら、それをどこまで我慢してフラットに書くかに注力すべきだ。

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