GRヤリスといえば「モータースポーツからのクルマづくり」というトヨタの新機軸でデビューしたクルマだ。ラリー車になった時のリヤウィングへの風の当たり方を考慮して市販車のルーフラインを決めるといった、従来あり得なかった作り方で設計されている。
考えてもみてほしい。ヤリスは、われわれが日々街を走っていて、そこら中でうじゃうじゃ目にするクルマだ。厳密にいえば3ドアと5ドアで少しボディが違うが、とはいえ全く別物というわけではない。基本は安いレンタカーを借りた時に出てくるクルマだ。「超」が付くポピュラーカーである。そんなクルマが、企画段階からモータースポーツのためのデザインを取り入れるなんてことがあり得るだろうか?
まあ今更騒いでも仕方がない。現にそういうクルマとして生まれて、ちゃんと普通に愛されて、あろうことかBセグで一番売れているのだから文句をいっても始まらない。
要するにトヨタは、市販車と競技車を相容れない対立軸で見ていない。どっちかに合わせたら他方の性能が疎(おろそ)かになると思っていないのだ。両方の「もっといいクルマ」は両立できるし、なんなら双方のノウハウで高め合い「より・もっといいクルマ」になるというのだ。
かつて、筆者にそう説明したのはGRカンパニーのプレジデントを務めていた当時の友山茂樹・現エグゼクティブフェローである。正直「友山さんもついにおかしくなった」と思った。「量販車中の量販車を、競技に使うことを念頭に設計するなんてことがあるかい」と当時筆者は思ったのである。が、あれから5年。ヤリスはちゃんと売れているし、モータースポーツでもまた活躍している。すんませんでした。
GRヤリス 一番速いヤツと一番遅いヤツ
GRヤリスの試乗会は今回が3度目である。そして年の瀬の足音が近づいてきた今頃になって、ようやく公道試乗会に至ったわけである。多分GRヤリスが欲しいという大抵の人には、RZ“High performance”がお勧めということになるだろう。こういうクルマは、買ってから後悔するくらいなら全部載せが無難だ。
GRヤリスで「モータースポーツからクルマを開発する」ためにトヨタが取った手法
トヨタは「モータースポーツからクルマを開発する」というコンセプトを実現するために、製造方法を変えた。ラインを流しながら組み立てることを放棄したのである。従来のワンオフ・ハンドメイドの側から見れば高効率化であり、大量生産の側から見れば、従来の制約を超えた生産精度の劇的な向上である。これによって、トヨタは量産品のひとつ上にプレタポルテ的セミオーダーの商品群を設定できることになる。
すごいGRMNヤリス、素人同然な販売政策(前編)
GRMNヤリスに乗せていただいてきた。のっけから何だと思う読者諸氏も多いだろうが、思わずそう言いたいくらい良かったのだ。本当にこの試乗会くらい、呼ばれて良かったと思う試乗会もなかった。これに関してはもうホントにトヨタに感謝する。筆者の自動車人生の中で特筆に値する経験だった。
ヤリスGR-FOURとスポーツドライビングの未来(前編)
トヨタでは、このGRヤリスを「WRCを勝ち抜くためのホモロゲーションモデル」と位置づける。AWSシステム「GR-FOUR」を搭載したこのクルマは、ハードウェアとしてどんなクルマなのか。そして、乗るとどれだけ凄いのだろうか。
トヨタはプレミアムビジネスというものが全く分かっていない(後編)
前回はGRMNヤリスがどうスゴいのかと、叩き売り同然のバーゲンプライスであることを書いた。そして「販売のトヨタ」ともあろうものが、売る方において全く無策ではないか? ということもだ。ということで、後半ではトヨタはGRMNヤリスをどう売るべきだったのかを書いていきたい。
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