ラリーで鍛えたらどうなったのか “真顔”のアップデートを遂げたGRヤリス池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)

» 2024年01月15日 10時28分 公開
[池田直渡ITmedia]
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今回一番の驚きはAT仕様のGR-DAT搭載モデル

 で、サーキットインプレッションと相なるわけだが、前からすんごかったGRヤリスがもっとすごくなった。クルマそのものは乗ってすぐに違う。たぶんこの種のクルマに興味のある人で乗って分からない人はいないだろう。

袖ヶ浦本コース以外に特設のダートコースも用意され、こちらでも試乗。プロドライバーの領域ではいざ知らず、われわれ素人のレベルだとさすがラリーウェポンだけあって、コントロールの自由度ではむしろダートの方が楽しめる

 具体的には1コーナーに進入した瞬間から、ノーズの入り方がスムーズ。ヨーの着き方も旋回姿勢の変化も、旧型より連続的になって、安心感が増した。旧モデルではタイヤの粘着力でグイグイ食いついていくような感覚だったが、そういうある種の強引さが影を潜め、一連のコーナリングが連続した軽やかな動きに変わっている。

 誤解を恐れずにいえば運転しやすくなった。安心感が増し「グリップが抜けたらどうしよう」と身構える感覚が薄れた。一方で95Rの2コーナーあたりでは、速度が上がりすぎてもう筆者には踏み込めない。限界が高すぎてクルマに気合い負けする。結構頑張っても、クルマの方はまだまだ余裕があるのだ。

 なので高速コーナーでその先に追い込んだ時、限界域で扱いやすいのかどうかは検証できなかった。というかその先まで行ける人はたぶん自分で見極められると思う。

進入速度のコントロールさえ誤らなければ、四駆らしく、踏んで曲がっていくことができる。そのあたりの特性も駆動力配分でいかようにもセッティング可能だ

 新旧の乗り比べにおいてはもう圧倒的に新型の勝ちである。ちと旧型乗りがかわいそうだと思ったら、アップデートパーツを組めば同等にできるらしい。何をどこまでやるかはお財布次第。ただ既存オーナーを切り捨てない姿勢は評価したい。

 そして実はその先に、本題があったりする。今回一番の驚きは先にチラッと触れたAT仕様、GR-DAT搭載モデルである。先に答えを書いておくと、プロのレーシングドライバーが乗って、袖ヶ浦でMTに遅れることコンマ数秒。モリゾウ選手ですら、GR-DATで走った方が速いというから、筆者のレベルだと数秒レベルで速いだろう。ただでさえ人間の側の限界に近い領域に入るので、走らせるために必要な操作は少ないほど頑張れる。ステアリングとペダルに集中できるとこんなに楽で、なおかつ運転が面白いのかと目から鱗だった。

ラリーチャレンジに出場している車両はGR-DATが搭載されたテスト車。すでに現場で鍛えている。楽で速い。ステアリングとブレーキに集中できるメリットは大きい

 もしあなたが、名が売れているレベルのレーシングドライバーでないのなら、MTよりATの方が楽しめると思う。ということで、まあありとあらゆるところで常識はずれのGRヤリスだった。

 まかり間違っても公道で限界うんぬんなんてことは考えない方が良いクルマだが、もし筆者に金と時間があって、なおかつあと15歳若かったら、サーキット走行会専用にこれが欲しくなったかもしれない。そのくらい面白いし、性能もものすごい。ちなみに試乗会の後は文字通りヘトヘトだったことを白状して記事を結びたい。すごいクルマを作ったものだ。そしてこれからもどんどん進化は続いていくと思う。

プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。


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