そして、そのモータースポーツで活躍するためのラリーウェポンとして、半年後にはGRヤリスが追加された。「ラリーのレギュレーションも変わるのに、間抜けなデビューだ」とラリーマニアたちはかなり渋い顔で懐疑的スタンスだった。レギュレーションの端境期に巻き込まれて、まあいろいろと世の流れに揉まれそうだったのは事実かもしれないが、誰も予期せぬコロナ禍で事情が一変。結果論としてはトヨタに都合の良い形に収まって、ラリーの頂点クラスのWRCでも、国内の全日本選手権でもしっかり活躍を続けている。
まあそういうケガの功名みたいなところもあって、通常のヤリスだけでなく、「損しなきゃ良い」はずだったGRヤリスまでちゃんと利益を出してしまった。
そういう出自のクルマなので、ラリーの現場で起きるトラブルでクルマがどんどん鍛えられていく。例えば良かれと思ってフロントグリルは軽量な樹脂製を採用していたが、ラリーシーンではちょっと接触して変形した場合など、時間のかかる部品交換ではなく、人力でグイグイ引っ張ってへし曲げて直したりできる分、金属網のグリルの方が都合が良い。
選手たちは雪のコースあたりだと平気で雪壁を擦って、むしろそれを利用して曲がったりするものだから、バンパーを中心に外装のあちこちが破損する。その「破損をリカバーするための方法」というようなノウハウが現場で貯まりまくる。それが吊るし(既製品そのまま)のGRヤリスにバカスカ反映されていくわけだ。要するに市販車のためだけの開発は特に行われていない。ラリーに出れば直す場所が嫌でも出てきて、その対策をすると自動的に市販車の改良ができていくという流れだ。
- GRヤリス 一番速いヤツと一番遅いヤツ
GRヤリスの試乗会は今回が3度目である。そして年の瀬の足音が近づいてきた今頃になって、ようやく公道試乗会に至ったわけである。多分GRヤリスが欲しいという大抵の人には、RZ“High performance”がお勧めということになるだろう。こういうクルマは、買ってから後悔するくらいなら全部載せが無難だ。
- GRヤリスで「モータースポーツからクルマを開発する」ためにトヨタが取った手法
トヨタは「モータースポーツからクルマを開発する」というコンセプトを実現するために、製造方法を変えた。ラインを流しながら組み立てることを放棄したのである。従来のワンオフ・ハンドメイドの側から見れば高効率化であり、大量生産の側から見れば、従来の制約を超えた生産精度の劇的な向上である。これによって、トヨタは量産品のひとつ上にプレタポルテ的セミオーダーの商品群を設定できることになる。
- すごいGRMNヤリス、素人同然な販売政策(前編)
GRMNヤリスに乗せていただいてきた。のっけから何だと思う読者諸氏も多いだろうが、思わずそう言いたいくらい良かったのだ。本当にこの試乗会くらい、呼ばれて良かったと思う試乗会もなかった。これに関してはもうホントにトヨタに感謝する。筆者の自動車人生の中で特筆に値する経験だった。
- ヤリスGR-FOURとスポーツドライビングの未来(前編)
トヨタでは、このGRヤリスを「WRCを勝ち抜くためのホモロゲーションモデル」と位置づける。AWSシステム「GR-FOUR」を搭載したこのクルマは、ハードウェアとしてどんなクルマなのか。そして、乗るとどれだけ凄いのだろうか。
- トヨタはプレミアムビジネスというものが全く分かっていない(後編)
前回はGRMNヤリスがどうスゴいのかと、叩き売り同然のバーゲンプライスであることを書いた。そして「販売のトヨタ」ともあろうものが、売る方において全く無策ではないか? ということもだ。ということで、後半ではトヨタはGRMNヤリスをどう売るべきだったのかを書いていきたい。
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