自動車記事を書く時の3つのポイント池田直渡「週刊モータージャーナル」(6/6 ページ)

» 2024年03月25日 12時19分 公開
[池田直渡ITmedia]
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長い登り坂に配慮せよ

 そして、丁寧に記事を書いていると、複雑な事象の説明で、一カ所くらいは長い上り坂がやってくる。書いている方もここは辛いけれど、読む方だって辛い。こういうところで、読む側の負荷をどうやって減らすかは考えないとダメだ。ただぶん投げて端折(はしょ)るのは原稿として不誠実。原稿は商品なので、やるべきことはちゃんとやるのは当然だ。

 例えばヤリスの記事では、あえてリリースをそのまま抜き出して地色で区分し、なんならそこは読み飛ばしてもOKという作りにしてある。

 あるいは別の技法としては、そういう難しい説明文の途中で、突然筆者が黒子のように出てきて、例えば「あー、書いていても面倒臭い」のように、読み手が一回テンションを抜けるアクションを作る。長い上り坂に踊り場というか休憩所を入れるのだ。

 3つ目の技法は最後に「要するに」として、ここまでの論旨をまとめてリピートしておく。これはとても重要。書いた方は1文字も忘れていないが、長文を読んできた人は、最初に読んだことをいちいち記憶していない可能性が高い。特に筆者のように論理を積み上げた長い原稿を書く場合は「ここまで書いてきたことは全部頭に入れとけよ」という読者への要求は求めすぎだ。

 結論のために積み上げてきた前提を把握していないと、当然結論の意味が分からなくなる。そうならないためには、だからもう一度論旨のベースになるポイントをまとめ直すわけだ。これがないと結論で腹落ちできない人が増えてしまう。

 ということであらかたの話は終わりだ。そのほか、全体を通して、気を付けていることは「分かりやすい例え話」とちょっとしたウィット。硬い面倒な話ほど、そういうのを入れないと読む側が疲れる。

 ということで、編集部が書けというから原稿の書き方を思いつくままに記したわけだけれど、はてさてこれが誰の役に立つものやら。

プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。


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