3月8日付レポートでは、トランプ前大統領の公約集「アジェンダ47」の要点を整理したところ、トランプ政権時代と変わらず、米国第一の保護主義という基本方針が確認されました。そのため、11月5日の米大統領選挙でトランプ氏が勝利した場合、市場への影響を考えるにあっては、トランプ政権の4年間で株、為替、金利がどう動いたかを検証しておくことが重要と思われます。
そこで、今回はトランプ政権時代の株価動向を振り返ります。
2016年11月8日の米大統領選挙でトランプ氏が勝利すると、大規模減税策への期待から世界的に株価が上昇し、いわゆる「トランプ・ラリー」と呼ばれる現象が発生しました。米国でも年末にかけて主要3指数が大きく上昇し、業種別では金融、通信サービス、エネルギーが好調なパフォーマンスとなりました(図表)。
17年のトランプ政権1年目も、米国株の堅調推移は続きました。トランプ氏はこの年、中間所得世帯を中心とする減税や、法人税率の引き下げを柱とする税制改革を推進し、米主要3指数は年間で2桁の上昇となりました。また、業種別では情報技術の上昇率が36.9%と最も大きく、大手ハイテク株の上昇が目立ちました。情報技術に次いで高い上昇率となったのは、素材、一般消費財でした。
18年の政権2年目において、トランプ氏は通商政策で対中強硬姿勢を鮮明にし、米中貿易摩擦問題が株式市場の懸念材料となりました。また、同年11月6日の米中間選挙では、民主党が下院の過半数議席を奪取する結果となりました。この年、米主要3指数は年間でそろって下落し、業種別ではヘルスケアと公益事業を除く9業種がマイナス圏に沈みました。最も下落したのはエネルギーで、素材、通信サービスが続きました。
19年の政権3年目において、トランプ氏は中国製品に対する制裁関税を段階的に導入し、米中貿易摩擦問題は一段と深刻化しました。こうした中、米連邦準備制度理事会(FRB)は、貿易問題を巡る不確実性を挙げ、7月、9月、10月と、連続利下げに踏み切りました。その結果、この年の米主要3指数はそろって2桁の上昇、業種別でも11業種全て上昇し、ハイテク株の急反発で情報技術、通信サービスが特に好調でした。
20年の政権4年目は、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、金融市場は世界的に大きく混乱しましたが、米国では大規模な経済対策と積極的な金融緩和が株式市場を支えました。このようにトランプ政権の4年間は、減税政策は株高要因、米中対立は株安要因となり、米金融政策のかじ取りも重要で、ハイテク株の成長が顕著だったといえます。つまり、トランプ勝利に過度な警戒は不要で、経済・金融政策の見極めが大切と考えます。
旧東京銀行(現、三菱UFJ銀行)で為替トレーディング業務、市場調査業務に従事した後、米系銀行で個人投資家向けに株式・債券・為替などの市場動向とグローバル経済の調査・情報発信を担当。
現在は、日米欧や新興国などの経済および金融市場の分析に携わり情報発信を行う。
著書に「為替相場の分析手法」(東洋経済新報社、2012/09)など。
CFA協会認定証券アナリスト、国際公認投資アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員。
© 三井住友DSアセットマネジメント
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