生成AIで死者を“復活”させるビジネスは人を救うのか 指摘される懸念とは?世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)

» 2024年04月27日 06時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]
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精神に「害を及ぼす」可能性も指摘

 TBSの報道では、死者をAIで復活させるサービスを提供している中国人の男性が「私は今、人々を救っていると感じます。人々に精神的な安らぎをもたらしているのです。私の夢は、普通の人がデジタルの力で『永遠に死なない』ことを実現することです」と述べている。筆者もこの感覚は理解できるが、この考え方自体を疑問視する声もある。

 というのも、亡くなった人といつでも普段通りに対話できるようになることで、人の精神衛生に害を及ぼす可能性があるというのだ。家族など大事な人が亡くなったとき、人はその悲しみを受け入れ、克服していく。そして自分の人生を前進させていく。AIで死者を復活させることに対して、「忘れるという行為は健康的である」と主張している報道もある。

亡くなった人との対話が精神に害を及ぼす可能性も指摘されている(画像提供:ゲッティイメージズ)

 米国ではこうしたサービスが、心理学の研究対象にもなっている。コロラド大学のジェッド・R・ブルーベイカー教授らの研究では、こうしたサービスが死者の存命中に生成したコンテンツを反復するのではなく、新規コンテンツを生成する能力があることから、このようなサービスに使われるAIを「生成ゴースト」と呼んでいる。

 生成ゴーストと対話を続けると、現実社会との関係に混乱が起きる可能性もあるとこの論文は警鐘を鳴らす。論文を引用すると、「例えば、生成ゴーストの広範な採用は、労働市場、対人関係、宗教組織など、現代社会の基礎を根本的に変える可能性があります」という。

 また、故人の情報を学ばせて生成する場合は、倫理的な課題もある。プライバシーの問題もあるし、亡くなった人が死後に自分が復活することを望むかどうかという問題もある。こうした議論は今後さらに活発になるだろう。

 生成AIを使えば、ディープフェイク画像を簡単に作れるので、中国などでは画像を不正に使って有名人を復活させるケースも出ている。著作権や肖像権を侵害するこうした行為が批判を浴びているのは言うまでもない。

 新しいテクノロジーの登場は、ビジネスチャンスであるのと同時に、考慮すべき課題ももれなく付いてくる。今回の新しいサービスは、人の死が関わっているだけに慎重な議論とともに展開されていく必要があるだろう。

筆者プロフィール:

山田敏弘

 ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。

 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)、『死体格差 異状死17万人の衝撃』(新潮社)、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)がある。

Twitter: @yamadajour、公式YouTube「SPYチャンネル


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