もう1点、みずほ銀行の検証を振り返って気になったのは、2021年に大規模障害を起こす前にも、2018年に同様のシステム障害を起こしていることです。2018年の障害時も、ATMで顧客の通帳やカードが1800件取り込まれています。ところが平日日中であったことから、店舗の行員が迅速な対応をして、大きな問題にはならなかったのです。この時点で十分な再発防止策を講じていれば、次なる事故を防げたであろうものの、システム担当も経営層もこの事例を軽視して何の対応も取らなかったことが大事故につながりました。
「1件の重大事故の背後には、29件のかすり傷程度の事故があり、さらにその背後にはヒヤリとした300の体験がある」というのは、俗に「ヒヤリハットの法則」といわれるハインリッヒの法則です。大事故を避けるためには、かすり傷やヒヤリハットの段階で再発防止策を実行するのことが重要です。今後の調査で分かるでしょうが、小林製薬の築80年を超え、かつ管理認証未取得の大阪工場内で、衛生面で安全性を脅かすようなヒヤリハットが必ずやあったのではないかと思うのです。
製品安全性軽視の風土が組織に深く染みついたものであるのなら、それを払拭(ふっしょく)するには大きな決断と、時間をかけた改革への真剣な取り組みが不可欠です。会見で自らの辞任を否定した小林社長ですが、同族経営企業の組織風土を変えるには、何よりまず一族での経営体制を改める必要があるかもしれません。
同族経営ではないみずほ銀行でも、事件を機とした持ち株会社も含めた経営陣を刷新。「経営陣に対する提言」を制度化することで、組織の風通しを良くしました。さらに、本社が入る大手町タワーには「システム障害にかかる展示室」を設けて、過去の大きな汚点を決して風化させない姿勢を全社に徹底しています。これらの対応は、小林製薬の風土改革にも必ずやヒントになるものと考えます。
いまだ全容が明らかになっていない小林製薬の健康被害問題ですが、会見で小林社長は健康食品事業を続けるのかという質問に「許されるなら健康食品事業を続けたい」と答えています。しかし、それを口にするのは今ではなく、全容解明後にやるべきことをやってからではないかと思います。自らの経営に対する、著しい危機感の欠如を感じざるを得ません。自社の経営姿勢が抱える問題が複数の死者を出しているという事実を重く受け止め、原因究明と共に一刻も早い組織風土改革に着手するべきと考えます。
株式会社スタジオ02 代表取締役
横浜銀行に入り現場および現場指導の他、新聞記者経験もある異色の銀行マンとして活躍。全銀協出向時はいわゆるMOF担として、現メガバンクトップなどと行動を共にして政官界との調整役を務めた。銀行では企画、営業企画部門を歴任し、06年支店長職をひと区切りとして円満退社した。その後は上場ベンチャー企業役員などとして活躍。現在は金融機関、上場企業、ベンチャー企業のアドバイザリーをする傍ら、出身の有名超進学校人脈や銀行時代の官民有力人脈を駆使した情報通企業アナリストとして、メディア執筆者やコメンテーターを務めている。
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