この記事は、パーソル総合研究所が3月21日に掲載した「大人が学び続ける組織文化(ラーニング・カルチャー)をいかに醸成するか〜ミドル・シニア就業者の学び直しの実態調査より〜」に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。
政府が推進する「三位一体の労働市場改革」では、成長分野への労働力移動を促し、リ・スキリングによる能力向上の支援が強調されている。今日のビジネス環境は、人材不足が深刻な事業の継続性の問題を引き起こしており、生成AIを含む新しいデジタル技術の導入も加速している。この変化に対応するため、企業と就業者にとって、政府の当該指針は極めて重要である。
しかし、2022年にパーソル総合研究所が実施した国際調査(※1)では、日本の就業者の成長志向が他国に比べて顕著に低く、自己啓発に対する投資も不足していることを示した。そこで、本コラムでは、特に35歳から64歳のミドル・シニア層を対象に、「学び直し」(※2)の実態とその捉え方、企業としての介入ポイントに焦点を当てる。
筆者らの実施した9000人のミドル・シニア層を対象とした定量調査(※3)の結果を基に、企業が従業員の学習意欲を高める方法について探求したい。
(※1)パーソル総合研究所 「グローバル就業実態・成長意識調査(2022年)」(※2)学び直し:業務外に、仕事やキャリアに関して継続して学習すること(※3)パーソル総合研究所+産業能率大学齊藤弘道研究室「ミドル・シニアの学びと職業生活についての定量調査」
調査の結果、ミドル・シニア就業者の70%は、「何歳になっても学び続ける必要がある時代だ」と感じており、63%は「学び直しは将来のキャリアに役立つ」と考えていた。
一方で、実際に学び直しを行っている人の割合は14.4%にとどまり、77.3%が学び直しに取り組んでいないことが確認された(図1)。
学び直しに取り組んでいない人のうち、29.8%は「何らか学び直す必要がある」と感じているにもかかわらず、行動に移さない理由として「時間がない」「お金がない」という回答が多く挙がった。また、「何を学べばいいか分からない」「学び方が分からない」といった理由も上位に挙がった。
しかし、実際に学び直しを行っている人は労働時間が長い人たちほど多く、年間の学習予算は平均10万円なのに対し、実際の支出額は平均3万円だった。学び直しへの取り組みが必要だと理解しつつも実際に行動に移せていない人が、「時間がない」「お金がない」と回答する理由は、業務外の時間における学びへの資源配分の優先順位の問題であり、学習意欲の低さを示唆する結果と考えられる。
日本の就業者の学習意欲の低さの背後には、複雑な要因が絡み合っているため単純化して論じることには注意が必要だが、調査結果の中で筆者らが着目したのは、学習観などのバイアスの存在である。回答者の70%は「仕事のことは、仕事の中で学ぶのが一番だ」と考えており、「業務時間外の仕事に関する学習は、パフォーマンスにつながりづらい」(45.6%)とも感じていた。学び直しに対する「現場バイアス」である。
また、学び直しを行っている人の46.4%は「研修や資格取得こそが学びだと思う」、37.8%は「机に向かって黙々とやるものだ」と考える「机上・独学バイアス」があった。学び直しとは、学生時代の受験勉強や新人らの職業訓練の一環のように狭く捉えられがちなのだろう。
この他、手っ取り早く学び「学んだ成果をすぐに実感したい」(60.4%)という「タイパバイアス」や、これまで学び直しなどをしなくても何とかなってきたという「現状維持バイアス」なども確認された(図3)。
また、学んでいることを「周囲に言わない雰囲気がある」(56.2%)という、学びを秘匿化する「コソ勉バイアス」なども根深く、大人が学ぶこと自体の楽しさや意義を見いだしにくい組織文化・風土の影響も浮き彫りとなった。
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