前編の記事で見たように、一蘭は業績好調である。経営陣はさぞかし数字目標に厳しく目を光らせているのではないかと思っていた。ところが同社には「数字を追わない」という考え方があるそうだ。具体的に言うと、利己的な欲で数字ばかりを追いかけ、もうけを優先するような考えを排除している。
山田氏はカップ麺「一蘭 とんこつ」の商品開発を例に挙げた。
「引き合いは強く、コンビニと組めば一気に稼ぐことができたかもしれません。でも、私たちはそれを好まなかった。だから時間をかけて自前で開発し、納得のいくものができるまでオファーを断りました。当社には食品研究所というチームがあって、そこが何年もかけてスープもタレもこだわって作りました。具材の議論も当然しましたが、フリーズドライのような中途半端な具を入れるのであれば、当社の味だけで勝負しようとなりました」
目先の利益をとらないという考え方は、経営陣に限らず、末端の社員にまで行き届いている。
「当社は接待禁止ですし、モノをもらうのも極力お断りします。年賀状も出しません。このスタンスはそういったところから来ているのです」
株式上場もする予定はないと断言する。そこまで徹底するのは、自らのアイデテンティティが損なわれないようにするためだ。理念を守り、唯一無二の存在であり続けることが、会社の発展にとっても不可欠だと考えている。
一蘭のWebサイトには、次のような一文がある。
「幸せ満ち溢れた高い人間性を持つ人を育み、世の中に喜びや価値を提供します」
一杯のラーメンでこれを体現する。創業以来、今までそれを愚直に続けてきた。結果、福岡から全国、そして世界中に広がって、多様な人たちに愛されるまでになった。この哲学と志は今後もブレることはない。
伏見学(ふしみ まなぶ)
フリーランス記者。1979年生まれ。神奈川県出身。専門テーマは「地方創生」「働き方/生き方」。慶應義塾大学環境情報学部卒業、同大学院政策・メディア研究科修了。ニュースサイト「ITmedia」を経て、社会課題解決メディア「Renews」の立ち上げに参画。
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