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カツオが食べられなくなる? 水産資源の「獲りすぎ」防ぐサプライチェーンの最前線(3/3 ページ)

» 2024年05月21日 08時30分 公開
[植松周平ITmedia]
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ビジネスにおけるサステナビリティ確立の先例として

 この水産業界における画期的な取り組みが報道された同月27日、同じくWWFの支援のもと、MSC漁業認証の取得を目指していた、大洋エーアンドエフによるカツオ・キハダのまき網漁業がMSC漁業認証を取得。日本市場における熱帯マグロ漁業は、さらにサステナビリティを高めることとなった。なお、同社の2023年の漁獲量はカツオが約1万7900トン、キハダマグロが約4700トンだ。

 MSCによれば、これらの認証の実現によって、対象のマグロ・カツオ漁船による漁獲量は100万トン未満であった2017年から2022年度には260万トン以上に増加。MSCのラベル付きマグロ・カツオ類の製品販売量は2022年までの過去5年間で約3倍に増え、過去最高の17万8000トンに上った。

 さらに、これらの認証の取得に動いた、明豊漁業、共和水産、大洋エーアンドエフの3社は、他にも漁業資源の持続可能な利用に向けて積極的に取り組んでいる。

 その一例が、世界最大の熱帯マグロ産地である、中西部太平洋のマグロ漁業を管理する国際機関「WCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)」に対する要望だ。2020年以降、3社はWWFのような環境保全団体や他の水産ビジネスに関係する企業と連名で、WCPFCに加盟する各国政府に対し持続可能な熱帯マグロの漁業管理の強化を訴求。目先の利益をもたらす漁獲可能な総量の増加を求めるのではなく、水産業の将来を見越した資源と漁業の持続可能な管理強化に向けた働きかけに参加した。

 こうした一連の取り組みによって、企業による海の生物多様性の保全にも貢献する取り組みが、生産、流通、販売のプロセスにおいて、確かな形になろうとしている。まさに水産業界による、SDGs(持続可能な開発目標)の「12.つくる責任つかう責任」「14.海の豊かさを守ろう」「17.パートナーシップで目標を達成しよう」に通じたビジネスの在り方といえるだろう。

 これらの取り組みは、水産業界のみにとどまらない。大手水産会社だけでなく、その製品を扱う大手小売業界より、持続可能な製品の調達を求める動きがあったために実現した経緯がある。より広いビジネス分野におけるサステナビリティの浸透に関係しているのだ。

 今後企業に求められるのは、こうした方針を企業目標や公約として掲げ、また原材料の調達においては自社のサプライチェーン全体を視野に入れつつリスク管理をすることだ。機関投資家や金融機関の注目は日々高まっており、こうした姿勢が業界を問わず、企業に求められる環境対策のスタンダードになるだろう。

 3年間にわたるさまざまなステークホルダーの協力のもとで実現した、カツオ・キハダのまき網漁のMSC漁業認証の取得は、こうしたスタンダードのモデルともいうべき取り組みの一つである。今後、水産業に限らず、あらゆる産業において、環境や人権に配慮した責任ある調達と消費の輪が広がっていくことを期待したい。

著者紹介:植松周平

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農学博士。東京大学大学院農学生命科学研究科において水域保全学に関する博士号を取得。

その後、経営コンサルティング会社を経て、国際水産資源研究所(現 水産研究・教育機構)に入所。太平洋クロマグロの資源研究を行う。

2013年よりWWFジャパンで勤務し、マグロ、カツオ、サンマといった国際水産資源の保全やIUU漁業対策に関わる業務に加え、事業戦略立案や各種業務改善等の社内コンサルタント業務にも従事。2021年には水産庁水産流通適正化法検討委員を務めた。


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