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カツオが食べられなくなる? 水産資源の「獲りすぎ」防ぐサプライチェーンの最前線(2/3 ページ)

» 2024年05月21日 08時30分 公開
[植松周平ITmedia]

サステナブルなシーフードの証MSC「海のエコラベル」

 MSC(海洋管理協議会)漁業認証とは、サステナブルな漁業の国際認証で、現在世界の550件の漁業がその認証を受けている。

 MSCでは漁獲量や資源量、海洋環境への配慮について国際規格を設けており、各国の漁業ごとに厳しい審査が実施される。資源の乱獲や生態系への影響を緩和するために適切な記録、報告の枠組みがあり、それらが機能しているかを第三者の審査機関が審査・認証する仕組みである。

 また、漁業の認証だけでなく、製造・加工・流通の段階で、認証の水産物と非認証の水産物が混ざらないよう適切に管理することを目的とした「MSC CoC認証」がある。こうした認証取得事業者を通じて販売される水産物には、MSC「海のエコラベル」が付けられて販売される。そのため、店頭でそれを手に取った消費者にも、その魚がサステナブルなものであることが一目で分かるようになっている。

 MSC認証の重要性は、このように漁業の現場から消費者の手元までを審査の対象としてカバーすることで、サプライチェーン全体の管理を可能にし、漁業のサステナビリティを確立する手段の一つになっている点にある。

 企業や漁業者が、それぞれ単独で資源管理や環境配慮に取り組む場合、何をどこまでやればよいのか、またそれをどう認めてもらえばよいのか、判断することが非常に難しい。しかし、第三者の審査機関がこれらを評価し、改善点を指摘し、国際規格を満たした生産や流通に認証というお墨付きを与えるならば、企業側は改善の取り組みが容易になる。

 こうしたエコラベルの利用を伴う認証制度には、天然の水産物を対象とするMSC以外にも以下などがある。それぞれ海洋や森林の自然環境と資源の保全・持続可能な利用の確立につながる制度として、国際的な信頼を獲得している。

  • ASC(Aquaculture Stewardship Council:水産養殖管理協議会):水産物の養殖が対象
  • FSC(Forest Stewardship Council:森林管理協議会):木材や紙などの林産物が対象
  • RSPO(Roundtable on Sustainable Palm Oil:持続可能なパーム油のための円卓会議):パーム油(植物油)の生産が対象

 あらゆるビジネスにおいてサステナビリティが求められるようなった現在、これらの認証制度を利用する企業は、増加の一途をたどっている。

熱帯マグロ漁業で実現したMSC漁業認証の意味

 2月にWWFジャパンの呼びかけで漁業改善に取り組み、MSC漁業認証を取得した中西部太平洋のカツオ・キハダ(きはだまぐろ)のまき網漁業も、こうした国際的信頼を勝ち得た取り組みの一つだ。

 漁業対象であるカツオとキハダは、熱帯の海域を中心に生息するマグロ類で、カツオはタタキや出汁のかつお節、ツナ缶の原材料として、キハダは刺身やツナ缶の材料として多く消費されている。特に、ツナ缶としての利用が世界的にも需要が大きい。

 しかし、それが原因となり漁獲量が急増。世界最大のカツオとキハダの漁場である太平洋では、資源量が過去最低のレベルまで減少していた。つまり、こうした状況の中で、日本の水産企業が資源管理とサステナブルな漁業への転換に取り組むことの意味は極めて重いといえる。

 特にカツオは、日本の消費量が世界のカツオ消費量の10%を占める(※1)。今回、認証を受けた共和水産の第78光洋丸、東海漁業(共和水産の子会社)の第88光洋丸、明豊漁業の第36昇喜丸、第88明豊丸の4隻の漁船による漁獲量は、日本のカツオの総漁獲量の約14%に相当する約1万5400トン、キハダについては同じく約10%に相当する約4100トンに上ると試算(※2)されていることから、これは水産業界として、国際的にも注目するべき取り組みであることがうかがえる。

(※1)FAO Fishstatおよび財務省貿易統計よりWWFジャパンが消費量を試算(※2)漁獲量(MSC Track a Fisheryより)、日本全体の漁獲量(FAO Fishstatより)を用いてWWFジャパンが漁獲割合を算出

 また、このカツオ・キハダのMSC漁業認証の取得例では、本来ライバル関係にある同業の2社が協力し、知見を共有しながらグループとして共に行動することで、認証にかかるコストを抑えつつ、水産業界として持続可能なマグロ資源の利用促進に挑んだ。

 そして非営利で環境保全に取り組むWWFの呼びかけに応じ、3年間にわたりその助言を入れながら認証の取得を目指したことは、多様なステークホルダーによる連携の好例といえる。

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