過去の興行収入推移を見ると、2009年、2016年、そして2023年が大きな転換点となっている。2009年は長らく続いた停滞期を脱し、30億円台の興収を安定的に確保するきっかけとなった。2016年には前年比約1.5倍の50億円を初めて超え、さらに2023年には驚異的な100億円を突破する記録的な興行収入を残した。
これら3作品に共通しているのは、シリーズの中心となる「黒ずくめの組織」をストーリーの核心に据えていた点である。製作陣は、原作の幹となるストーリーラインと映画作品を密接に関連付けることで、ファンの期待に呼応し、興行収入の向上につながると見越していたのだろう。
実際、2023年公開の『名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)』では、「黒ずくめの組織」に加え、人気キャラクターの灰原哀にもスポットライトを当てるなど、複数の要因が相乗効果を生み、興行収入100億円の大台を超えるに至った。
なお、2024年作品でも人気キャラクターの「怪盗キッド」にスポットを当て数字を獲得する一方、原作未公開である、主人公の出自に関する新設定を映画内で公開するなど、これまでにやっていなかった挑戦を行っている。
これは作者・青山剛昌氏や小学館による、怪盗キッドが主役の連載『まじっく快斗』とあわせた戦略的な取り組みであろう。つまり、『名探偵コナン』に留まらず、スターシステム(マンガの登場人物をさながら映画俳優のように扱うシステム)を最大限活用した「青山剛昌ワールド」の構築が企図されていると考えられるのである。
『名探偵コナン』の人気上昇と映画の興行収入向上には、明確な理由と戦略があり、その手法は再現性が高い。今後も同程度の業績を維持すると考えられる。さらに、作者の別作品『YAIBA』が今後アニメ化されることでスターシステムが強化され、「青山剛昌ワールド」が更に発展する可能性もある(事実、YAIBAのキャラクターが今年の映画にも出演している)。こうしたことから、『名探偵コナン』は今後も日本の漫画・アニメ・映画市場で息の長いコンテンツとして業界を牽引(けんいん)するだろう。
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