幸楽苑に客足が戻らない現象は、昨今におけるラーメン業界の活況を考えると異常に映る。参考までに、2024年2月期における日高屋の客数はコロナ前比94.5%であり、客単価増もあって売り上げは以前の水準を超えている。同様に餃子の王将も2024年3月期の客数はコロナ前比94.3%である(各社月次報告をもとに筆者が算出)。
幸楽苑が苦戦する要因としては、新興勢力の台頭が考えられる。近年、ロードサイドでは横浜家系で知られるギフトHDの町田商店や、濃厚な豚骨スープが売りの山岡家などが店舗数を拡大している。
ギフトHDの場合、町田商店の名を直接冠さない系列店(プロデュース店)も含めれば、ここ5年間で300店舗近く拡大し、現在は国内で700店舗以上展開している。また、北関東では小規模業者や個人経営による話題店も多い。こうした個性の強い新興勢力を前に、幸楽苑は存在感を失ってしまったのではないだろうか。
ロードサイドの主要客である、ドライバーやエッセンシャルワーカーの行動範囲は意外と広い。筆者は前職でドライバーや職人と関わることが多く、彼らの話を聞くところによると、ランチでは話題店を求めて本来通るべき国道と平行する道を選んだり、30分遠回りしたりすることもあるという。
そんな中で、幸楽苑はラーメン単品で800円以下、ランチセットは1000円以下のメニューもあり、低価格帯である。だがかつての290円ほどのインパクトはなく、醤油・塩・味噌の3種類からなるメインのラーメン類は個性が薄い。新興勢力も安価なランチメニューを提供しているだけに、幸楽苑の魅力が薄れてしまったと考えられる。
同社は2025年3月期売上高を前年度と同水準の260億円と予想している。不採算店の閉鎖で営業利益は大幅増の6億円を見込むが、上記の通り客足は戻っていない。都市部の駅前と違い、立地のメリットが比較的小さいロードサイドはなおさら価格と味で勝負する必要がある。幸楽苑の業績はロードサイドの厳しさを如実に伝える事例といえるだろう。
山口伸
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。 X:@shin_yamaguchi_
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